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秋桜  作者: 七地
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物憂い (2)

電話を切って食堂に戻ると、麗香ちゃんが私を見つけて手を振った。


「何で…」


小橋さんの彼が席を取っていてくれると思ったら、麗香ちゃんは寛貴達の席についていた。肝心の小橋さんは、少し離れた席で彼と一緒にご飯を食べていた。


「梨桜ちゃんのきつねうどん持ってきたよ?」


「ありがとう」


麗香ちゃんの隣に座り、割り箸を割った。

寛貴達とご飯を食べるのって、凄く注目を浴びている。麗香ちゃんは平気なのだろうか?私はとても居心地が悪い。


私の正面に寛貴が座り、斜め前に拓弥君が座っていた。悠君はその隣に座っていてこちらを見ようとしなかった。

今日のお昼は居心地が悪いだけではなく、消化にも悪い。


早く食べ終えて、教室に帰ろうと思っているのに、うどんの湯気でメガネが曇って食べ辛い。

メガネって不便!

曇りを拭きとろうとしてメガネに手をかけると、寛貴に名前を呼ばれた。


「え?」


顔を上げると、怖い顔をして私を睨んでいた。


「寛貴、怖いよ…」


そんな顔されたら食べられないでしょう?麗香ちゃんが怖がるから止めてよ。


「いつも言ってるだろ」


だから、怖いって…

寛貴の隣で拓弥君が笑いながら自分のこめかみをトントンと軽く叩いてジェスチャーをして教えてくれた。

あ、メガネを外すなってこと?


「食べにくい」


「文句言うな」


凄まれて、仕方なく私は眼鏡をかけたままうどんを食べ続けた。

早く食べてこの席を立ちたかった。




「梨桜ちゃんの携帯じゃない?」


うどんを食べ終えて、お水を飲んでいると麗香ちゃんが教えてくれた。

葵用に設定した着信を知らせるブルーのライトが点滅していた。

携帯を開くと…


『何で愁に伝言頼むんだよ?オレに言えばいいだろ』いきなり、文句のメール。


愁君の言った通り拗ねているんだろうか…大人になってもこのままだったらどうしよう?

『髪を切って来るね』

今更だと思ったけれど、メールで送った。


「ごちそう様でした」


「梨桜ちゃん、ちょっと待っててね?」


まだ食べ終わらない麗香ちゃんが言い、食べ終わるのを待っているとまたメールが届いた。


『今更なんだよ、バカ。短く切りすぎるなよ、カラーリングもするな』


美容室に行くことは許してくれるんだ。でもやっぱり煩い。

私と葵の髪の毛の色と瞳の色は同じ色。だから、葵と双子なのを隠すならカラーリングして髪の色を変えた方がいいような気もするんだけど、葵はそうは思わないらしい。


『うん、わかった』と返信を送り、もう一口水を飲んだ。

髪をストレートにしたいんだよね。でも、この事は黙っておこう。

葵を驚かせてやるんだ。


「梨桜ちゃん、どうしたの?」


「ん?」


葵や愁君達がどんな顔をするのだろうか?想像してにんまり笑っていると、麗香ちゃんに顔を覗き込まれた。


「楽しそうだね」


「ふふっ、あ…弟を驚かせようと思ってね」


思わず“葵”と言いそうになって慌てて言い直して、麗香ちゃんを手招きした。


「なぁに?」


耳元で『気分転換に美容室に行って来るね』と囁くと、麗香ちゃんから『お奨めのお店を教えてあげるね』と囁き返されて、二人でクスクスと笑った。


「梨桜ちゃんの弟君ってどんな子?」


麗香ちゃんの言葉に首を捻った。

どんな子って、ホントは麗香ちゃんと会ってるんだけどね。どう言ったらいいだろう?


「…生意気。かな」


他にも葵を形容する言葉はいくつもある。

男の子なのに綺麗な顔をしていて、喧嘩が強くて、冷たく見えるけど面倒見が良くて、優しいけどオレ様で意地悪。それから…


「写メある?」


写メは…あるけど、見せられない。

視線を感じて、向かいの席を見ると拓弥君が笑っていた。


「梨桜ちゃんの弟の名前は?」


言えない、言える訳がないよ。

拓弥君に向かってニッコリと笑い返した。


「…ナイショ」


「なんだよ、高校に入学したら可愛がってやるのに。今、何年生?」


拓弥君の言葉に顔が引き攣りそうになった。“可愛がる”って、拓弥君のソレは想像すると怖いから。

葵を可愛がる拓弥君。…間違いなく、葵の手と足が出て喧嘩になるんだろうな。


「それもナイショ」


そう言うと、寛貴がフッと笑って目線だけを私に向けて言った。


「ブラコン。別におまえの弟を朱雀に入れるつもりはない」


ブラコンという言葉を聞いて思い出した。私ってブラコンだと思われているんだった。そう思われているのも葵が過保護すぎるせい。


「お願いしますね、藤島センパイ。可愛い弟なんです。麗香ちゃん、教室に戻ろうか」


藤島先輩。そう呼ぶと寛貴は嫌そうに眉を顰めた。麗香ちゃんは寛貴と私を見てハラハラしていたけれど、構わずに席を立った。


「梨桜、試験が終わったら生徒会に来いよ」


急に寛貴に言われて、振り返った。

この前屋上で私が言った事を覚えていないんだろうか?


「この前、話したと思うんだけど?」


生徒会には行きにくいって言ったよね、忘れたの?

私の言葉を聞いて、寛貴は口角だけを上げて笑った。


「聞いたな。でも、『それはオレが決める事だ』そう言っただろ?オレが来いと言っているんだから、来い」


その言葉を聞いて悠君を見ると彼は寛貴を見ていた。

寛貴の言葉を聞いて、彼はなんて思ったのだろうか?


「梨桜、返事は?」


返事を促す寛貴と彼を見ながらニヤリと笑った拓弥君。

拓弥君だって私が生徒会に関わることを良しと思っていないのに。その事も寛貴に伝えた方がいいのだろうか?


「梨桜?」


もう一度返事を促されて、私は頷いた。

拓弥君の事を話をするとしても、一度生徒会には顔を出した方が良いのだろう。


「わかりました」


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