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秋桜  作者: 七地
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物憂い (1)

昨日は青龍のチームハウスで愁君に宥められて、それからコジ君の勉強を見てあげたら家に帰ったのがすっかり夜中になってしまった。


だから。というわけじゃないけれど久しぶりに寝坊した。

目覚ましも止めて寝ていたようで、葵に起こされて時間を見て凄く焦った。



「東堂さんが学食なんて珍しいね」


「寝坊してお弁当作れなかったの」


お昼休みに食堂に来ると、男子生徒の多さに圧倒される。

ホントに男ばっかり…。この光景に食欲を無くすのは私だけ?


げんなりしながら、食券を売っている自動販売機に並ぼうとすると、隣にいる小橋さんが一生懸命に手を振っていた。

小橋さんのキラキラした視線の先には、手を振り返している男子生徒がいる。


「麗香ちゃん、あの人、誰?」


小さな声で麗香ちゃんに聞いたら笑いながら教えてくれた。


「あの人が小橋さんの彼氏のユキヤ先輩だよ。ケーキ作るの手伝ったでしょう?」


もう一度小橋さんの視線の先を見ると、まだ手を振っているユキヤ先輩がいた。制服を少し着崩している彼が少しだけ軽そうに見えるのは気のせいかな?

女の子専門の拓弥君ほどじゃないけどね…


「ケーキか、そういえば手伝ったねぇ」


思えばあの日の定例会から悠君とぎくしゃくし始めたんだよね。今日も悠君と会話らしい会話をしてないなぁ。

愁君は落ち着いたら、って言っていたけどホントに落ち着くんだろうか?


「あのね、ユキヤ先輩が席をとっててくれるって」


ありがたい申し出に私は頷いた。こんなに混んでいる食堂で女の子だけで座れる席なんて無いに等しい。

面識の無い男の人と同じ席で食べるなら、知っている人と同じ席で食べる方がいい。


「ありがと」


小橋さんにお礼を言った時、携帯が震えた。

誰だろう?

ディスプレイを見ると電話の着信で、彼の顔を思い出したら笑みが浮かんだ。


「ごめんね、電話してくる」


「梨桜ちゃんは何を食べるの?」


通話ボタンを押して携帯を耳にあてた。


「きつねうどんをお願いしてもいい?」


麗香ちゃんと小橋さんに手を振って、食券を買う列から抜けた。


『おい、オレはきつねうどんじゃないぞ』


笑いながらそう言う相手に私も笑ってしまった。


「ごめんね、タカちゃん」


『おう』


相変わらず元気な声だね。彼は仲が良かった中学の同級生。

食堂から出て、人通りが少ない階段の踊り場で話をした。


「久しぶりだね、元気だった?」


『あったり前だろ。おまえはどうなんだよ、調子戻ったか?』


怪我をして入院している時も頻繁にお見舞いに来てくれた。

明るいタカちゃんと仲良しの彼女が励ましてくれたから、辛い入院生活を乗り切れたような気がする。


『なに笑ってんだよ』


「ん、思い出し笑い」


タカちゃんの彼女とは私も仲が良いけど、いつも彼女に押されている彼が可愛くて、見ていて面白かった。


「あれ、梨桜ちゃん?」


呼ばれて振り返ると、寛貴と遥君がこちらを見ていた。

悠君と目が合うと、ふいっと逸らされた。


『…?、東堂、聞いてるのかよ』


タカちゃんに呼ばれて慌てて返事をした。


「ごめん、タカちゃん。なに?もう一回言ってくれる?」


寛貴達に手を振ると、寛貴に『今日は学食か?』と聞かれ、頷いて返事をした。

『早く来ないと席が無くなるぞ』と拓弥君に言われて手を振って返事をして、タカちゃん

との会話を続けた。


『――あのさ、言いたくないならいいんだけど、聞いていいか?』


急に声のトーンを落とした彼に、私の口元に浮かんでいた笑みが消えた。


「うん」


何が言いたいのか分かってしまった。

多分、あのことだよね?


『東堂、アイツに何も言ってないのか?』


予想通りの質問だけど答えられなかった。唇を噛んで、どう返せばいいか考えていると彼の方が先に話し始めた。


『黙ってる。ってことはそうなんだな?』


「ごめん」


タカちゃんは優しい声で宥めるように言ってくれた。


『勘違いするなよ?オレは責めてないからな』


その言葉に救われるような気持ちになる。


「うん」


『携帯のアドレスを聞かれてさ…オレは教えなかったんだけど同じクラスだった奴が教えたらしくてさ』


そうだったんだ。


「うん、多分そうかな?っていうメールは来たよ」


自分の言いたいことだけを告げた短い文章のメール。

あれ以来メールが届いていないけど、心の中で、また来たらどうしよう?っていう気持ちはある。


『大丈夫か?』


心配そうなタカちゃんに、大丈夫だよ。と答えると心配そうに『強がりじゃないだろうな』と言われた。


「大丈夫だよ、タカちゃん。東京と北海道だよ?…でも、何か聞かれても教えないで欲しいな。お願いしてもいい?」


『任せとけ、お前に何かあったらオレが円香にどやされるからな』


姉御肌の円香ちゃんがタカちゃんを叱ってる姿を思い出して、笑ってしまった。


『じゃあな、東堂』


「うん。ありがとね」


笑って電話を切ったけれど、最後の言葉に気分が沈んだ。


…どうしてこんなに重なるの?

イライラする。


どうしようもなくイライラする--



「…」


急に思いついて、携帯のアドレス帳から番号を呼び出した。


『どうしたの?』


いきなり電話をしたのに王子様な愁君は、いつも通りの優しい声で聞いてくれた。


「今日の放課後に髪を切りに行きたいの。行ってきてもいい?」


『勿論いいよ。迎えに行かせるから終わったら教えて?』


「うん、ありがとう。アレにも伝えてくれると嬉しいな」


ここで葵の名前を出すのはまずいから、“アレ”で誤魔化すと愁君はクスクスと笑っていた。


『オレから葵に言うの?きっと拗ねるよ』


葵に言ったら自分の好みを押し付けてくるから、できれば内緒で行きたい。

だから、愁君だけが頼りなの。上手く葵を言いくるめられるのは愁君くらいだよ?


「お願い!だってうるさいんだもん」


そう言ったら、電話の向こうで大笑いしていた。

笑い事じゃないんだよ、愁君!


「愁君?」


いつまでも笑っている愁君に、私にできる精一杯の威厳を込めて「ねぇ?私は本気なんだけど」と言うと、やっと笑いを止めた。


『ごめん。…そうだよね…いいよ。葵にはオレから伝えておくから。可愛くなっておいで』


少し笑いを含んだ声で言う愁君に「ありがとう」と言って電話を切った。


可愛い云々は別として、少し気分転換をしたいんだ。


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