青龍と朱雀 (3)
寛貴は気がついていたんだ。って気付くよね?
「え…と、悠君は悪くないよ」
どちらかというと私が一方的に悪くて邪魔というか…どう答えたら良いのだろう?迷いながら、寛貴を窺うと、鋭く睨まれた。
「良いとか悪いとかは聞いてない。何を言われた?」
整った顔で睨まれると怖いよ。
視線を逸らそうと思ったけれど、頬を両手で押さえられて叶わなかった。
目線で『言え』と凄まれて仕方なく口を開いた。
「悠君は私の事を心配してくれたの」
心配してくれていることには感謝したいと思うの。私が悠君の望みに応えられないだけ。
彼に『心配しないで、葵は私を傷つけないから大丈夫』そう言って理由を言えたらいいのに…
「わかるように言え」
要領を得ていない私の答えに寛貴は眉を顰めた。
だから、その整った顔で凄まれると怖いんです。
「危険だから東青と親しくしないで欲しいって」
寛貴もそう思ってるの?そう聞こうとしたら、寛貴は後ろを振り向いた。
「梨桜、じっとしてろよ」
何が?と聞こうとしたら私は寛貴の腕の中にいた。
確か前にもこんなことがあった…あの時はバカみたいに私一人がドキドキして、寛貴は平然としていた。
きっと今回も同じ。そうだよね?
平静を保とうと、気づかれないように呼吸を整えた。
「いいな?何も話すな」
これから誰か来るのだろうかと考えていると、足音が聞こえて大きな声が響いた。
「寛貴さん!」
屋上に響いたのは悠君の声だった。
彼の視界に入らないように寛貴を盾に身を小さくしようとしたら、背中に回された腕に力がこもった。
「寛貴さん、校舎の中を捜したけど、どこにもいな…」
私を見つけたらしい悠君の言葉が途中で途切れた。
「悪い、見つけたって連絡するの忘れた」
寛貴は笑いを含んだ声で言い、私の背中を撫でた。
『捜した』『見つけた』って、私って捜されてたの?寛貴の顔を見ようとしたら頭をぎゅっと抱き寄せられた。
「悠さん、うわっ!すみません」
強く抱き込まれている状態が息苦しくて、もがいていると、とても焦った声が聞こえた。
誰だろう?と思っていると、寛貴が小さく笑った。
「またおまえか、邪魔するの好きだな」
あの時は飛澤章吾が入ってきた。また、っていう事は今日も彼が入ってきたの?
「あのっ…寛貴さん、スミマセン!!」
焦っている様子が気の毒になってしまった。彼が謝る必要はないのに…
「…3回目もあるかもな?」
こんなの、またあったらたまらない。窒息するから!
腕の中で憤慨していると、寛貴は笑いながら言った。
「ないです!もう邪魔しません!悠さん、早く行きましょう!」
「悪かったな悠」
「寛貴さん、先に行ってる」
焦っているらしい飛澤章吾はバタバタと屋上から出て行き、その後に悠君の足音がついていった。
「…もういいでしょ?離して」
少しだけ腕の力が緩められたけれど、解放はしてくれなかった。
「早く言え」
まだ納得してないの?
話しが続いていた事にガッカリしたけれど、この際だから言う事にした。
「私がこの学校の生徒会に所属しているだけで他のチームから狙われるとか、守られるとか‥‥そういうのは嫌なの」
「それはオレが決める事だ。生徒会に入れたオレが言ってるんだ。大人しく守られてればいいだろ」
寛貴の腕の中で首を横に振った。
言えなくてごめんね。
「私にそんな価値はないよ。…話したんだからもういいでしょ?」
寛貴の胸に手をついて身体を離そうとしたけれど腕を解いてくれなかった。
「寛貴、いい加減にして」
顔を見上げると、抵抗している私を見て目を細めた。
「梨桜、調べる事はできる。でも、オレはお前の口から聞きたい。そうじゃなければ意味がない」
寛貴は何を知っているの?何を考えているの?