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秋桜  作者: 七地
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均衡 (7)

「悠君、そんな風に考えるのは寂しいよ」


「梨桜ちゃんは何もわかってないからそんなことが言えるんだ。オレ達は…」


最初から関わらなければ良かったのかな、そうすれば悠君にこんなイヤな思いをさせることもなかった。


「もしも、逆の立場だったとしたら?私が東青の生徒だったら、悠君とは友達になれないの?」


私は葵の身内で青龍にも出入りしているけれど、悠君と友達になれて良かったと思うよ。

でもきっと、皆には私に理解できない感情があるんだよね


「悠君、私のせいでイヤな思いをさせてごめんね」


私の方を見ない彼に声をかけて、資料室を出た。




生徒会室に戻ると、定例会は終わっていた。


「すっげー雨だな」


窓に叩きつけられるような激しい雨と空に鳴り響く雷。

窓際に寄って空を見ると、稲妻が光っていた。


「梨桜ちゃん、怖くないのか?」


拓弥君が隣に立ち、空を見上げながら聞いた。


「怖くないよ、綺麗だね」


「きゃー!とか言ってくれたらオレ的には嬉しいけど?」


「ごめんね、期待に応えられなくて」


いつもの軽口に付き合う気持ちにはなれなくて、まともな返事を返してしまった。冗談を言うような気分じゃないんだ。


「梨桜、帰るぞ」


帰ろうと思って窓際から離れると寛貴に呼ばれた。


「一人で帰る」


首を横に振って答えた。“一人で帰りたい”葵にも伝わるように言ったら、葵は不機嫌そうに眉を顰めた。


「見たらわかるだろ?この雨じゃ傘なんか役に立たないぞ、濡れるだけだ」


寛貴が聞き分けのない子供に言い聞かせるように言ったけれど、私はその言葉に頷いた。


「うん、別に構わない」


私が車に乗せてもらったら悠君がイヤな思いをするでしょう?

少しだけ、一人になりたい。


「構わないって、何考えてるんだ」


「冬じゃないから多少濡れても平気だよ」


この雨に濡れたら、多少じゃ済まされないことは分かっていたけれど、同じ車で帰るのは気が引けた。


「バイバイ」


鞄を持ち、扉に手をかけて寛貴や葵達に手を振った。



昇降口を出て、もう一度空を見上げるとさっきよりも雨が激しく降っているような気がした。

葵と一緒に帰る気分でもない。

きっと何があったのかを聞かれて、言わされてしまう。そうなったら葵だって嫌な気持ちになる。

悠君だって、葵に知られたと分かったら嫌な気持ちになる……


考えても仕方のないことばかりが頭の中に浮かんでくる。

溜息をついて傘を開こうとしたら、ガシッと首に腕が巻きついた。


「何するのっ」


それは、葵の腕だった。


「離して」


見上げると、私を見下ろしてバカにするように小さく笑っていた。

ムッとして睨むと更に笑った。


「おまえ、バカだろ」


バカでもなんでもいいから離してよっ


「梨桜ちゃん、一緒に帰ろう?」


愁君にニッコリと微笑まれて見惚れていると、私の手から荷物を取り上げてコジ君に渡してしまった。


「ちょっと、苦しい!葵、離してってば!!」


葵は私の言葉を無視したまま、ズルズルと私を引きずった。

もがいて巻きついている腕から逃れようとすると、葵はピタリと止まって私を見下ろした。


「ずぶ濡れになって、風邪をひいたら誰が看病するんだ?」


それを言われると弱い。看病するのは葵しかいない。


「…今回は放置でいいです」


苦し紛れに言うと、葵は眉を吊り上げた。


「手間かけさせんな」


短くそう言うと私を車の中に押し込んだ。


「梨桜ちゃん、海堂と何かあった?」


車の中で愁君に聞かれて、どうしたものかと迷った。

いつも冷静で的確なアドバイスをくれる彼には全てを話してしまいたくなる。…でも、今回の事は言わないでおこうと思った。


「何もないと思うよ?機嫌が悪かったみたいだね」


「アイツにすげー睨まれた。生意気な一年だな」


「悠君は優しいから紫苑の生徒の私と葵が親しく話すと心配するのかな‥‥」


精一杯濁して言ったつもりだけれど、私の右隣にいるコレには伝わらなかった。


「なんでオレが梨桜とのコトを遠慮しなきゃいけないんだよ、部外者は奴だろ」


オレ様発言に呆れたけれど、葵らしいといえば葵らしい。


「葵、梨桜ちゃんの立場も考えろよ?大体なおまえは…」


愁君に叱られている葵は「わかってる」とか「うるせぇな」とか悪態をついていたけれど、そのうち腕を組んで寝たフリをしてしまった。


「ごめんね、梨桜ちゃん。良く言っておくから」


私の顔を覗き込みながら、首を傾げて言う愁君に『とんでもない!』と首を横に振った。


「愁君、謝らないで!?いつも迷惑かけてごめんね。葵って、こんなだけど仲良くしてくれる?」


こんなやり取りが前にもあったような気がする。そう思っていると、右隣から大きな舌打ちが聞こえた。

愁君はクスクスと頷きながら笑っていて、助手席にいるコジ君も笑いを堪えているようだった。


「コジ、面白そうだな」


ふてぶてしい笑みを浮かべながら葵は助手席に座るコジ君を見ていた。


「いえ!すみません」


「そうだ…今度の試験で赤点取ったら、夏休み中は出入り禁止だ」


「ええ~!?」


コジ君の悲鳴のような声が響いた。


「赤点とらなきゃいいだけの話だろ?大体、生徒会メンバーで赤点があるなんてありえない」


愁君がコジ君に憐みの目を向けた。


「コジ、災難だな。赤点はない方がいいからな。まぁ、頑張れよ」


葵の意地悪…それって八つ当たりでしょ。コジ君も可哀想だけど……確かに赤点はない方がいいかもね。



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