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秋桜  作者: 七地
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均衡 (1)

東青生徒会が紫苑に来る日、私は未だにうんざりする量の過去の議事録と向き合っていた。


一つのファイルを手にしてパラパラとめくり、ため息をついた。


この作業に終わりが来る日があるのだろうか?

もう、うんざり…


何気なく開いたページを見て青ざめた。

そこには見覚えのある字でサインがされていた。


『紫苑学院生徒会 会長 宮野 慧』


慧君が生徒会役員だったなんて知らない!

これ、見られたらまずいでしょ!?

“宮野 慧” と “宮野 葵” この二人は面立ちと性格まで似ている。絶対結び付けて考えられるよ!


この前、悠君から聞かれてとっさに慧君を“パパの弟”そう言った。

パパの弟なら名字は東堂だと考えると思ったからそう言ったけれど、ここに資料が残っているなんて思いもしなかった。


見られないうちに隠さなきゃ!


「梨桜?」


急に名前を呼ばれて、飛び上がりそうになった。

吃驚した!


「梨桜」


もう一度呼ばれて下を見ると、寛貴が私を見上げていた。


「いつまでそこにいるつもりだ?」


私は資料室で脚立の上に座り、天井に届きそうな位高い位置にある書棚から記録する議事録を整理していた。


「うん、降りるよ」


手にしていた慧君の名前が載っているファイルを別なファイルの中に隠した。

後でこのファイルを持ち出して隠してしまおう。


「ファイルをこっちに渡せ」


そう言われて、寛貴に慧君の名前が載っていないファイルを渡した。


「降りられるか?」


「大丈夫。私、高いところ得意だから」


今までならピョン、と脚立から飛び降りたけれど、今はそれができない。

一段ずつゆっくりと降りていると、急に体が宙に浮いた。


「え?ひゃぁっ!?」


驚いて変な声が出てしまった。

なに!?


寛貴に脇を抱えられて床に降ろされた。


「寛貴!心臓に悪いからやめて」


「落ちそうになってるのを見てる方が心臓に悪い」


落ちそうになんかなっていない!


「私、そこまで運動神経鈍くないよ?」


笑っている寛貴に抗議すると益々笑われた。

何がそんなに可笑しいのか分からないけど、なんか、腹が立つんですけど?


寛貴の腕をバシッと叩こうとしたら避けられた。


「遅い。…高いところが得意って、おまえそれって、何とかと埃は「違うから!」」


寛貴の言葉に被せて否定した。

この男、葵と同じことを言う。可愛くない!




「梨桜ちゃん!」


資料室を出て、寛貴と生徒会室に向かっていると呼び止められた。

振り返ると、私の隣を歩く寛貴も立ち止まった。


「あ…藤島先輩」


私を呼び止めたのは麗香ちゃんと隣のクラスの小橋さんだった。


「どうしたの?」


私が声をかけても二人は寛貴を見上げていた。

一年の女子にとって上級生の寛貴は滅多に会えることのない貴重な存在らしい。


「私に用事じゃなかったの?」


二人に聞くと、思い出したように小橋さんが話し始めた。


「調理室でシフォンケーキを焼いているんだけど、東堂さんに教えてもらいたかったの」


お願い、と手を握りしめて言う彼女を見て少し申し訳なく思ってしまった。

これから定例会だし、仕事も山積みで溜まっている。教えてあげたいけれど、今日は時間がない。


「お願い。上手に焼けていたら先輩にあげたいの」


頬を染めて話す彼女を見ていたら、私まで心がキュンとなりそうだった。

恋する女の子の頼みを断れないよね?


寛貴を見ると目が合った。『行って来てもいい?』と目で聞くと頷いてくれた。


「先に行く。あまり遅れるなよ」


「うん」


寛貴が行ってしまうと、二人はため息をついた。


「私、藤島先輩をこんなに近くで見るの初めて。カッコイイね、生徒会で一緒に居られる東堂さんが羨ましいな」


小橋さんが両手で頬を抑えながらうっとりとしながら言った。


「素敵だよねぇ」


麗香ちゃんもため息をつきながら言う。


「こういうのって、アレだよね。眼福!」


ちょっと、ケーキをあげたい先輩はどうしたの?

私のトキメキを返して。



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