進路相談と大好きな人 (4)
慧君の車で買い物をして家に帰ると、玄関に大きな靴があった。
「あれ、葵がいる」
珍しく葵が先に帰っていた。
「家に居るように言っておいたんだ」
慧君が言うと、葵は出迎えてくれた。
「おかえり」
「ただいま!」
葵は私が持っていた荷物をキッチンに運んでくれた。
「凄い量の食材だな。何作るんだ?」
「今日の夕飯はちらし寿司。葵、手伝ってね?」
私が言うと慧君が笑った。
「葵、料理できるのか?」
「慧君、葵って料理が上手いんだよ?」
いつもは怖ーい顔で総長様してるけど、実はエプロンが似合っちゃうんだから。
コジ君とかが見たら吃驚するだろうな。
「慧兄はできないの?」
葵は笑いながら慧君に聞いていた。
「作る必要がない」
葵と顔を見合わせてしまった。葵もきっと同じことを考えてる。
作ってくれる人に事欠かないっていう事だよね?
「だったら結婚すれば」
やっぱり同じことを考えていた。
葵の言葉に同感。慧君はカッコイイからモテると思うんだけど、未だ独身。
アメリカでもモテたんだろうな。
背伸びをして吊り棚から寿司桶を出そうとすると、葵が取ってくれた。
「恋愛と結婚は別なんだよ」
それって‥
「ふ~ん。梨桜、真に受けるなよ」
「梨桜、無理に嫁に行かなくてもいいからな?」
突然真顔になって言う慧君に吹き出してしまった。
「やだ、慧君。パパでもそんなこと言わないのに」
葵も笑っていた。
「慧兄、オヤジ臭い」
「葵、うるさい。梨桜は嫁に行かなくてもオレが養ってやる」
私はまだ16歳なのに今から何を言ってるの?
「そんなこと言ってるうちに慧兄がじーさんになるだろ」
「葵、おまえ生意気になったな。昔は女の子みたいに可愛かったのに」
お米を研ぎながら、慧君の言葉に笑ってしまった。
うん。すっごく可愛かった。
葵は隠しているつもりだけど、男の子に告白されたことがあるのを私は知ってるもん。
「オレが生意気なのは慧兄に似たんだろ」
葵は私の隣で合わせ酢を作りながら憎まれ口を叩いている。
生意気な事を言いながら葵も楽しそうに笑っていた。
「梨桜は素直に育ったのに‥」
拗ねたように言う慧君が可愛かった。
「仕方ねーだろ。慧兄、諦めろよ」
慧君はまだ“可愛くない”と言いながらソファに寝転がった。
「こういうの、久しぶりだね」
隣にいる葵にしか聞こえない位の小さな声で言うと、葵も頷いていた。
「二人だけだと寂しいか?」
首を横に振った。
葵がいるから寂しくないよ。
「葵は?」
葵は薄焼き卵を作りながら小さく笑った。
「おまえと同じ」
慧君、葵は生意気だけど慧君と同じで凄く優しいよ?