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秋桜  作者: 七地
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進路相談と大好きな人 (2)

久しぶりに会えたことが嬉しくて、涙が出た。


「梨桜、軽すぎだぞ?」


私が慧君に抱きついていると、抱き留めたまま背中を撫でてくれた。


「ごめんな、梨桜が大変な時に傍にいてやれなくて」


申し訳なさそうに言う慧君に首を横に振って答えた。

顔を上げて、背の高い慧君を仰ぎ見た。


「いつ日本に帰ってきたの?」


そう聞くと口角を上げて悪戯っぽく笑った。

その笑みを見て、慧君が目の前にいるって実感した。


「昨日」


昨日!?日本に来るなんて知らなかった。


「どうして教えてくれなかったの?」


「驚かせようと思ってさ。ちゃんと帰ってきたから。泣き止め…な?梨桜」


慧君は「もう泣くな」そう言いながら私の涙を自分の手で拭ってニコニコと笑う。


大好き。

もう一度ぎゅっと首に抱きついた。


「東堂、感激の再会だと思うけど、これから3者面談をするから」


先生の言葉に涙が止まり、顔だけを先生に向けた。


「どうしてですか?」


私、何も悪い事してないよね?


「生活指導室にいるから来なさい」


先生はそう言うと先に行ってしまった。

何のための3者面談?それって、私と先生と‥慧君?


「慧君も行くの?」


そう聞くと、慧君は私を床に下ろした。


「当たり前だろ」


「どうして?」


「ん?オレは梨桜の保護者だから。普通、3者面談って言ったら生徒と保護者と教師の面談だろ」


その言葉に頷いた。


そっか…実の叔父は保護者か…慧君はママの弟。

15歳離れた私と葵の叔父さん。


「ほら、行くぞ?」


慧君に手を引かれた。


「待って、鞄を取ってくる」


そう言って生徒会室に入ると、3人が私を見ていた。


「梨桜ちゃん‥あの人誰?」


悠君に聞かれて慧君の名前を出さないように気を付けなければいけない。

宮野 慧 それが慧君の名前だから。


「私の叔父さんなの。ずっと外国にいたんだけど日本に帰ってきたの」


慧君は私が12歳の時に仕事でアメリカに行ったきりで会っていなかった。

去年、ママのお葬式の時に一時帰国したらしいけど、私は会えなかった。


「これから3者面談なの。終わったら真っ直ぐ帰るね」


「そうなんだ…じゃあね」


もっといろいろ聞かれるかと思ったけれど、あっさりと言われた。

3人に手を振り荷物を持って部屋を出た。





「メガネ外していいぞ」


生徒指導室に行くと担任が言い、私はメガネを外した。


「慧君、葵には帰国すること話してるの?」


慧君は口角だけを上げて笑った。

私達をからかうときの顔、変わらないな‥


「言ってないよ。一応、葵の保護者でもあるから午前中に東青に行ってきたよ。何も知らせないで急に呼び出したら凄く驚いてたな」


そう言って喉の奥で笑っていた。

葵も驚いただろうな‥


「なんで葵が生徒会長なんだよ。梨桜、不思議だと思わないか?」


先生は吹き出した。

慧君は長い脚を組んで座りながら笑っている先生を見ていた。


「宮野葵のコトをそんなふうに言えるのは貴重な存在ですね。さすが先輩だ」


先生の言葉に驚いた。

今、先輩って言った?


「慧君、先輩って?」


先生と慧君は知り合いなの?

慧君と先生を交互に見ると、慧君は私の顔を見て驚いているようだった。

吃驚しているのは私だよ!


「梨桜は知らなかったのか?オレはここの卒業生。安達はオレの後輩」


全然知らなかった。パパも教えてくれなかったし‥

慧君って頭がいいのは知ってたけど、ここの卒業生だったんだ。しかも先生の先輩なんだ


「そんなことより、梨桜、3教科満点だったんだってな。良く頑張ったな~」


私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。

昔から、テストでいい点数を取ると、膝に抱いて頭を撫でてくれた。


さすがに、私も高校生になったから『抱っこして』なんて言わないけど、こうやって頭を撫でて褒められるのは嬉しい。


漸く笑いが治まった先生が真面目な顔をして私に向き直った。


「今日は、進路のコトも含めての面談だ。まだ気が早いかもしれないが希望する進路はあるか?」


先生の言葉に慧君と顔を見合わせた。


進路なんか考えたことない。


「今は学校に来るだけで精一杯なんです」


私が言うと、慧君も頷いた。


「義兄とも話をしたけど、今は体調を見ながら学校の授業についていければいいと思っている。まだ体調を崩して休むことも多いだろうから、単位を落とさずに進級できればいい」


「そうですね…でもこの前の試験では学年で1番だったからな~難関大学でもすんなりいけそうだな」


「それは葵にやらせればいいだろ、梨桜に無理させるなよ」


葵、可哀想‥慧君も酷いよ。


「先輩、宮野は他校の生徒ですから。それはそうと、ウチの藤島とライバルだからな、競わせてみたいな。同じ大学受験させたらどうなるんだろうか‥」


「今度、ストレートで国立受かるように言っておくよ」


無責任なことを言う二人を横に進路の事を考えてみた。


先の事は全くと言っていいほど考えていなかった。

私の望みは、背中の痛くない日常を過ごすこと。それから、水泳ができるようになればそれで良い。


「安達、3者面談なんて、形だけだろ?」


「そうですね。一応進路の事を話したって言う事実があればいいんです」


先生、有名進学校の教師がそれでいいの?

私が呆れていると慧君は椅子から立ち上がった。


「煙草吸って来る」


「ああ、あそこは昔と変わりませんから」


慧君は、安達先生の言葉に頷くと私に「すぐ戻る」そう言って部屋を出て行った。


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