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秋桜  作者: 七地
59/258

目撃  (4)

弟の修羅場を見てしまうというのは、消化に悪いことだと知った。



家に帰ってきた葵は普段通りで何も変わらない。


あの時の葵は、すがるようにしている彼女を冷たく突き放していた。

今とは‥私といる時とは別人のように見えた。


「戸締りしろよ?」


「うん。今日も遅いの?」


夕飯を一緒に食べてからチームハウスに行く葵。

もしかしたら彼女と一緒に夕飯を食べたい時もあるのかもしれない。


「ねぇ、葵」


「ん?」


振り返って私を見る葵はいつもの葵だ。


「たまには、外でご飯食べてきても大丈夫だよ?」


そう言うと、片眉を上げて不機嫌そうに返事をした。


「‥誰か一緒に食べるような奴がいるのか」


違うから…

なんでも私に結びつける癖、直しなさい。


「私じゃなくて、葵だよ。友達とご飯食べたいときがあるんじゃない?」


そう言うと、私の鼻を摘まんだ。

痛いよ!


「余計な気を使うな。行って来る」


鼻を抑えながら、葵に手を振った。


「行ってらっしゃい」



一人になっても、やっぱり気になる。


こういう時は、愁君に聞いてみるのがいいかもしれない。そう思って愁君の携帯にかけた。


『どうしたの?』


すぐに電話に出てくれた愁君は優しく聞いてくれた。


「傍に葵いる?」


『いないけど‥なにかあった?』


葵が傍にいないのは都合がいい。


「愁君に聞きたいことがあるの。いい?」


『いいよ。電話で解決する?迎えに行こうか?』


愁君は優しい。

彼女がいるとしたら、彼女にはもっと優しいんだろうか?


「電話で大丈夫。あのね、前に愁君が用意した制服あるでしょ?」


『ああ、あれね。それがどうかした?』


「どうしてあの制服だったの?どうやって手配したの?」


『…突然どうしたの?』


「愁君、教えて?」


愁君の問いには答えずに聞くと、電話の向こうで愁君は戸惑っていた。


『もしかして、見た?』


素直に話したら教えてくれる?


「何を?」


愁君はきっと教えてくれないよね?優しいから私が傷ついたり、悩んだりするようなことは伏せて話をしてくれるよね‥


『オレは梨桜ちゃんと駆け引きするつもりはないよ。――見たんだよね?ブレザーの制服を着た女子生徒』


「あの人、葵の彼女?」


『気になる?』


愁君も寛貴と同じことを聞くんだね。

なんて答えようか‥私が迷っていると、愁君が笑った。


『あの子はただの知り合い。制服は都合してもらっただけだよ』


知り合い?それだけで、あんなこと言う?


「愁君の嘘つき」


そう言うと、また笑っていた。


『本当だよ、葵にとってはただの知り合い。彼女は、青龍の元総長の妹だよ。葵とオレがまだ幹部だった頃に彼女がチームに出入りしていたことがあったんだ』


元総長の妹。彼女は今の私と同じような立場だったんだ。


『その時から葵の事が好きで追いかけていたみたいだけど、葵は無関心だったよ。どちらかというと、迷惑に思っているかもしれない。ただ、総長の妹だから気を使っているんだよ』


愁君の言葉を聞いて、ソファに寝転がった。


ふぅん…彼女が一方的に葵の事が好きなんだ。

寛貴が言っていた『何もしなくても女に付き纏われる』まさにそれだね。


修羅場を見たと思って心配したのに‥


『もしかして、嫉妬したとか?』


クスクスと笑っていた。


「違うよ。葵も恋愛したいのに私が邪魔しているんじゃないのかなって思ったの」


『そうなんだ。ところで、その時一人だったの?』


また、やってしまった。

自分から怒られるネタを振ってしまった。


「生徒会で使う備品を買いに行ったときに見かけたの」


無難な答えを探し出して言い、愁君がなんて返して来るかドキドキしていた。


『今日はそういうことにしておいてあげるよ』


大目に見てくれたらしい愁君にホッとした。


「ありがと。優しいね」


「誰が優しいんだ?」


突然、頭の上から声が降ってきて、吃驚した私は飛び起きようとしてバランスを崩した。


「きゃあ!!」


ソファからずり落ちそうになったところを葵に支えられた。


「何やってんだよ、バカ」


「遅くなるんじゃなかったの?」


「忘れ物取りに来た」


携帯からは『梨桜ちゃん?』と愁君が呼ぶ声が聞こえてきている。

私は慌てて「後で電話するね」と言い、電話を切った。


「誰?」


「愁君だよ」


「愁?なんで」


「聞きたいことがあったから。葵、また出かけるの?」


「ああ、おまえも行く?」


「う~ん、どうしようかな。邪魔じゃない?」


「オレの部屋にいればいいだろ」


葵の言葉に頷いた。

あの部屋にいればチームの人ともあまり顔を会わせなくて済む。


「うん、行く」


私は『何もしなくても女に付き纏われる』それがどんなに面倒なことか、この時はまだ深く考えていなかった。

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