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秋桜  作者: 七地
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強引な招待 (4)

コトの経緯を全部言わされて、私はめちゃくちゃ怒られた。


「いい加減にしろよ?」


「だって、お墓参りに行きたかった」


「墓参りに行っても行かなくても事実は変わらないんだぞ」


冷たく言う葵を見て、涙が出そうになったけれど何とか堪えた。


酷いよ葵‥そんな風に言わないで


「葵、もういいだろ?梨桜ちゃんだって反省してるし、そもそも約束を守れなかったおまえも悪い」


見かねた愁君がそう言うと、葵は私から目を逸らした。


「それに、あいつらが梨桜ちゃんを自分達の倉庫に連れて行きたがるのは想定内だろ?」


愁君の言葉に返事をせずに、葵はペットボトルの水を飲んだ。


「腹減った…」


ご飯なんかいいからもう帰りたい。


「梨桜ちゃんも食べてないんだろ?なんか食べに行こうか」


愁君が優しく笑いかけてくれるけど、食欲なんかない。


「私は帰りたい」


「梨桜?」


葵が私を呼んだけど、返事をしなかった。

今、口を開いたら葵に不満をぶつけてしまいそうだ。


「桜庭さんに送ってもらえば心配ないでしょ?」


葵と愁君が私を見ていた。


「帰る」




‥----

    ----



「イヤ!!」



自分の叫び声で目が覚めた。


ベッドの上に半身を起し、両手で顔を覆って大きく息を吐いた。



いつも同じ。

この夢を見るのは辛い。



粉々になったガラス片の中に私が倒れていて、辺りは血の海。

目の前に人が倒れていて、虚ろな目をしているその人はピクリとも動かない…


「はぁ…」


ゆっくりとベッドから降りて自分の部屋を出ると葵はまだ帰ってきていないようだった。




バスルームの床に座り込み、頭から熱めのシャワーを浴びながら、涙が流れるのをそのままに泣いた。



事故にあったときの夢を時々見る。


前は頻繁に見ていたけれど、東京に来てからはあまり見なくなっていた。

久しぶりに見た夢はやっぱり衝撃的だった。


夢の中で、夢だと分かっているのに目を開けることができない。

血の海の中にいる自分が恐ろしくて、あの時の痛みが蘇ってくるようで‥怖くて怖くて仕方がなくて、「助けて」って叫びたいのに金縛りにあったように体が動かなくて、声が喉に張り付いて声が出ない。


夢の中で、やっと声が出て「助けて」って叫ぶと、血の海の中にいた私は花が咲き乱れる場所に立っている。

咲いている花はいつも同じ。


野原に一人で立っていてもう一度「助けて」って叫ぶと目が覚める。




リビングに戻ると葵が帰ってきていた。


「おかえり」


「ただいま。シャワー浴びてたのか?」


頷いて、ソファに座る葵の前に立った。


「ねぇ、葵」


「髪、乾かせよ」


「ぎゅーってして?」


葵が俯いている私に手を伸ばして前髪を持ち上げて、下から私の顔を覗き込んだ。

泣き腫らした私の目を見て葵は眉を顰めた。


「‥夢、見たのか?」


頷くと、すっぽりと葵の腕の中にいた。


「だから一人で墓参りに行くなって言ったんだ」


ため息まじりに呟いて私の背中を撫でた。




「落ち着いたか?」


「ん」


葵の腕の中は安心する。




落ち着いたけれど、眠れなかった

眠る事を諦めて、自分の部屋からバルコニーに出て真っ暗な空が白んでいく様子を眺めていた


札幌で入院していた時はまともに眠れる日のほうが少なかったから、いつも夜が明けていく様を眺めていた。


札幌の夜明けも綺麗だったけど、東京の夜明けも悪くないね‥


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