強引な招待 (3)
飛澤章吾がこの部屋に入ってこようとしていて、さっき外したメガネは離れた場所にある。
素性がバレる!バレたらどうしよう!?
焦っていると、ぐいっと肩が引かれて、目の前が暗くなった。
え?
「何かあったのか」
「寛貴さん!‥うわっ、すみません!」
焦る飛澤章吾と同じように私も焦っていた。
どうして?どうして寛貴に抱き締められているの!?
「いいから早く要件を言え」
寛貴は、私を抱き締めたまま少し不機嫌そうに答えていた。
「あのっ‥」
寛貴と飛澤章吾が何か話していたけど、耳に入らなかった。
頬に広い胸を感じて‥心臓がドキドキと早い鼓動を打ち、顔に血が集まってくるのが分かった。
落ち着け、私!
葵にいつも“ぎゅっ”てされるのと一緒。同じ!
「失礼しましたっ」
パタン、と扉が閉まる音がすると腕を解かれて解放された。
「…」
今のは何だったの…
「どうした?苦しかったか?」
何も言葉に出来ずに寛貴の顔を見上げるしかできなかった。
「背中が痛んだか?」
首を横に振った。
良くわからないけど、私一人が焦って、バカみたい。
「ううん、何でもない」
扉が開いて、拓弥君と悠君が帰ってきた。
「梨桜ちゃん、ケーキ食べるだろ?」
悠君がニコニコしながら手にしていた箱を私の前に出した。
「ありがとう」
もう、疲れたよ。
どうしよう、ママのお墓に行くこと葵に黙ってきちゃった。そろそろ帰らなきゃ
「青龍の倉庫に行ったことあるの?」
ふいに拓弥君に聞かれて「ないよ」と答えた
心配しているかな‥今は怖くて携帯を見られない。
「私、夕飯の用意をしなきゃいけないから帰るね。弟にも黙ってきちゃったし」
「送るから、弟に電話しなよ。心配しているかもしれないよ?」
悠君が言った。しまった、墓穴ほった!
「うん‥」
どうしよう?
「ここで電話していいよ。気を使わないで」
悠君に言われてしまった。
バックから携帯を取り出すと、着信を知らせるライトが点滅していた。
画面を開くと着信20件
ひえっ!怖い!
無情にも携帯が新しい着信を知らせた。
「‥もしもし」
なるべく彼らから離れて部屋の隅で電話に出た。
『梨桜、今どこにいる?』
すごく怒ってる!
「ママのお墓参り‥」
『勝手に1人で出歩くなって言ってるよな!?携帯に出ろ!何のために携帯持ってんだよ』
「ごめんなさい‥」
電話の向こうでため息をついた
『今すぐタクシーで駅に来い。わかったな?』
「うん‥」
絶対にお説教だ。
電話を切ると3人がこちらを見ていた
「タクシーで帰ります」
「送ると言ってるだろ」
寛貴が怖い顔をして言ったけれど
ここは引き下がっちゃいけない!
「男の子に送ってもらってるのを見られたら‥今でさえ凄く怒っているのに‥お説教が2時間コースになっちゃう」
葵だけじゃなく愁君にもお説教される
「すげぇな‥弟。オヤジかよ」
悠君は呆れているようだ。
「パパ以上に厳しいから‥私帰ります。ご馳走さまでした」
流しのタクシーを捕まえて帰った
駅につくと白いBMWが停まっていた。
「梨桜、乗れ」
やっぱり怒ってる。
車に乗せられて葵のチームに連れてこられた
「このバカ!」
「ごめんなさいっ」
車を降りるとぎゅうっと抱きしめられた
「心配かけるな」
「うん、ごめん」
「皆で探しに出るところだったんだぞ」
「ごめんなさい」
葵の肩越しに愁君と目があった
「無事で良かったよ、梨桜ちゃん」
「ごめんね愁君」
愁君は笑ってくれた
「‥梨桜、お前の髪の毛に煙草の匂いついてんだけど‥どういう事?」
ああ、拓弥君が幹部室で吸ってたな‥
「梨桜ちゃん?どういう事?」
愁君の笑顔が冷たい笑いに変わった
「…」
「来い」
「やっ!」
葵の肩に担がれた
「葵っ下ろしてっ!愁君!コジ君!助けて」
2人は私から目を反らした。
見捨てないで、助けてっ