定例会かお茶会か (2)side:悠
「動かないで」
梨桜ちゃんはそう言って、宮野の目元に細くてキレイな指を近づけた。
「とれたよ」
「ああ」
「睫毛が目に入りそうだった」
梨桜ちゃんが笑った。
「梨桜ちゃん、葵の睫毛を裏オークションに出したら高くさばけるよ」
三浦が言った。
「愁・・」
「へぇ~、そうなんだ。いいこと聞いちゃった、ありがとう愁君」
梨桜ちゃんは宮野の睫毛をマジマジと見てにっこりと宮野に微笑んだ。
「捨てろ」
冷たく低い声で睨みをきかせているのに梨桜ちゃんはにっこりと笑い返した。
「やだ」
彼女は彼女で宮野のこの迫力にまったく動じない。
「梨桜、捨てろ」
梨桜ちゃんは悪戯っぽく笑った。
彼女は間違いなく大物だな
「梨桜!」
宮野は立ち上がり、梨桜ちゃんの背中から羽交い締めするようにして梨桜ちゃんの右腕を掴んで梨桜ちゃんが握りしめた手を自分に引き寄せると、握られた指を一本ずつ開いた。
「あーあ」
梨桜ちゃんが残念そうに言うと
宮野が梨桜ちゃんの手をパンパンと自分の手で払うのを三浦と小嶋は笑って見ていた。
「お前ら・・何やってんだよ」
拓弥さんと寛貴さんが戻ってきて部屋の入口で腕を組んで2人を見ていた。
二人とも不機嫌そうな顔をしていた。
「私のお小遣い稼ぎ・・大切なアイテムだったのに」
三浦が爆笑し、宮野は梨桜ちゃんを睨んだ。
この男が爆笑するなんて、珍しいな。
そう思っていると、宮野がニヤリと口角を上げて笑った。
「なに?」
梨桜ちゃんが宮野に問いかけると、奴の手が素早く動いて梨桜ちゃんの顔に触れたように見えた
「ちょっと、葵!?」
「宮野?」
梨桜ちゃんの顔からメガネを取り上げていた。
「へぇ、おまえってこういう顔してたんだ?」
「勝手にとらないで!」
梨桜ちゃんが怒っているけれど、宮野は平然として彼女を見下ろしている。
「梨桜ちゃん、可愛いね。美少女だったんだね」
三浦が言うと梨桜ちゃんが宮野からメガネを取り返していた。
寛貴さんと拓弥さんは宮野を睨んでいる。彼女の素顔を隠しておきたかったのに、宮野にアッサリと知られてしまうなんて・・・
「コジ君、片付けよう」
梨桜ちゃんと小嶋が出て行くと宮野が
「愁、梨桜に余計なこと教えるな」
「梨桜ちゃんは期待を裏切らないよね。・・早く座れよ、梨桜ちゃんが来る前にさっさと終わらせようぜ」
「なんだ」
寛貴さんと拓弥さんが座ると三浦は封筒をオレ達の前に置いた
拓弥さんが封筒を開けると、隠し撮りらしい梨桜ちゃんの写真が出てきた。
朱雀のメンバーだと思われて狙われている。そういうことなのだろう
「青龍の傘下にいるチームの人間がたまたま手に入れた。北方面で出回っているらしいぜ?」
北方面=北陵か・・あそこにはオレ達を闇討ちしてきた卑怯なチーム黒鬼を傘下に納めるチームの幹部がいたはずだ。
「北もかよ」
拓弥さんが言い、三浦が眉を顰めた。
「西でも出回ってる。そっちは潰してきたんだけどな」
メガネをかけている地味な姿の梨桜ちゃんなのに隠し撮りされているなんて・・
これで素顔が知られたら・・危険すぎる。
「拓弥、出所を探れ」
寛貴さんが言うと拓弥さんは低く「ああ」と返事をして携帯を持って部屋を出た。
「そうしてくれるとオレもありがたいんだよね、梨桜ちゃんの作ったケーキまた食べたいし」
「梨桜の身はオレ達が守る」
寛貴さんが毅然と言い放つと、宮野が冷たい視線を寛貴さんに向けた。
「なんだよ宮野・・」
「別に」
こいつは寛貴さんとは正反対でクールで冷徹でわかりにくい奴なんだけど、寛貴さんに向けた視線はハッキリと意志がこもっていた
・・でも、青龍には大切にされている姫がいるんだろ?
宮野の心変わりか?
会議が終わり帰り際に
「梨桜ちゃん、今日はご馳走さま。また土曜日にね」
土曜日だと?
会うのか?まさかデートとかいうんじゃないだろうな!?
「うん・・」
三浦は梨桜ちゃんの顔を覗き込んだ
「大丈夫だよ。あの先生優しいから、そんなに心配しないで?」
くしゃくしゃと髪を撫でた
「検査が終わったら教えて?」
こくんと頷いていた。
「梨桜ちゃん、病院なんだ?」
宮野達が帰り、オレが聞くと頷いた
「三浦とは・・連絡とってるの?」
「愁君とは友達だからメールとかするよ」
「宮野は?」
「メールも電話もしないよ・・」
目を伏せがちに言って俯いた。
「梨桜ちゃん?」
少し様子が変だと思って呼びかけた
「ん?」
顔を上げた梨桜ちゃんはにっこりと笑っていた。
・・・気のせいか?