放課後デート (3)
「笠原さん、ここで待っててね?」
彼女に手を振ると一緒についてきた悠君も手を振っていた。
残る授業は一つだけ
終わったら女子高生を満喫するんだ!
授業が終わって生徒会室に行くと拓弥君と寛貴がいて笠原さんはしきりに恐縮している。
ちょうど良かったので寛貴に鍵を返した。
「梨桜ちゃんオレも一緒に行きたい」
甘えた声を出す拓弥君に
「ダメ!拓弥君がいたらガールズトークできないでしょ」
「じゃあ今度デートしよ?」
「拓弥・・」
寛貴が低い声で拓弥君を呼ぶと「怖ぇ」といい首をすくめた
彼を黙らせるには寛貴の一言が一番効果的だと最近わかってきた。
笠原さんにケーキが美味しいカフェを教えてもらいそこでお茶を飲むことにした。
「美味しい」
「東堂さん、今日は誘ってくれてありがとう」
そう言って頭を下げた。
「私も楽しみたかったの、東京に来てからこういうのに遠ざかっていたから」
たわいない女の子の話は楽しかった。
やっと女子高生らしいことをしている!
「東堂さん、笑うかもしれないけど、呆れないで聞いてくれる?」
「もちろん。笑わないよ?」
居住まいを正して彼女に向き合った。
「あのね、中学の時に付き合ってる人がいたの」
勇気を持って話してくれたけれど、そこで途切れてしまった。
「うん・・彼の事、大好きだった?」
勇気を出して話してほしい。話して楽になって?
「うん・・彼は、圭吾っていうんだけど、圭吾は朱雀に憧れてたの。いつも朱雀の話をしていて、目をキラキラさせてて、一緒の高校に行こうって約束したの」
なんとなく、話は分かった。
「うん」
「私、一生懸命勉強して偏差値の高い紫苑に合格したんだけど」
俯いてしまった。
「彼はダメだったの?」
分かっていたけれど、彼女に聞いてみると、コクンと頷いた。
『よくある話』その一言で片付けるには悲しすぎる・・
「笠原さんは彼が好きだったんだよね?」
またコクンと頷く。
「でも、圭吾に言われちゃった裏切り者って」
「裏切り者?」
どうして裏切り者なの?
「圭吾に、滑り止めに受けていた学校に一緒に行こうって言われていたんだけど、紫苑に受かった事をパパとママがすごく喜んでくれて、私、違う学校に行けなかった」
彼が私の想像よりも根性がなかったことに腹が立つのと同時に、彼女が紫苑を諦めなかった事に安心した
「笠原さんは間違えてないと思うよ」
「ありがとう」
ありえないとは思ったけど聞いてみた。
「圭吾君とは、まだ付き合ってるの?」
首を横に振った。
付き合っていなくてホッとした。
「紫苑に入学して、少しは学校に行っていたんだけど、学校の帰りに偶然会って『裏切り者』って言われて・・『学校に通っている間中、裏切り者って呼んでやる』って言われたの。それ以来、連絡が来なくなった・・」
私は彼女に気づかれないようにため息をついた。
なんて懐の小さな、くだらない男なんだ!!受験に失敗したのは誰のせいでもない自分のせいじゃない!!
どうして合格した彼女を責めなければいけないの!?そんな器の小さな男は、葵に一発殴られちゃえばいいんだ!・・いや、私が殴ってやりたい。
「東堂さん、呆れたでしょ?」
哀しそうな目で私を見る彼女を見て、首を横に振った。
彼女にではなく、男に対して呆れてしまったけれど、それは彼女には気づかれたくない。まだ彼の事を思っているのかもしれない。
『そんなくだらない男の為に泣かないで、彼の言ったことなんか気にしないで』そう言いたかったけれど、彼女は学校に来ることが出来ないくらい傷ついたのだから、そう考えると躊躇われた。
「話してくれてありがとう。笠原さんは裏切り者じゃないよ。私は笠原さん自身を大切にしてほしいと思う」
上手い言葉が出てこない自分が歯痒い。
「ありがとう・・また、放課後デートしてくれる?」
私はにっこり笑った
「もちろん」
笠原さんの家の車でマンションの近くのコンビニまで送ってもらい、家に帰った。
ソファに座って笠原さんから聞いた話を思い出してムカムカしていると、
「さっきから何に怒ってんだよ」
葵が隣に座ると、私の頬をむにむにとつまんで引っ張った。
「だって」
「話してみろよ」
葵に言われてさっき笠原さんに聞いた事を話した。
「くだらねえ・・いつまでくだらない男引きずってんだよ?その女。その女も大概バカじゃないのか」
容赦ない一言に眉をひそめて葵を見た。
確かにそうだけれど、好きなら引きずっちゃうよ
「それだけ好きだったの!」
確かにくだらない男だけど、笠原さんは、彼の事が好きだったんだよ。
「それで?その女は学校来るのか」
葵に体重を預けて寄りかかると「重い」と文句を言いながら支えてくれていた。
「わからないけど、また放課後に会う約束はした」
「学校に来ただけでも一歩前進てとこか・・お疲れさん」
葵はくしゃくしゃと頭をなでた
次の日の昼休みに生徒会室で高校の偏差値基準表を見ていたら
「梨桜ちゃん、難しい顔してどうした?」
拓弥君が言った
「拓弥君、紫苑の滑り止めに受験する共学ってどこだろう?」
「・・なんで?」
拓弥君は私の手から基準表を取り高校の名前を見ていた
「ちょっと気になったの」
昨日、葵が笠原さんの彼の事はこれ以上深入りするなと釘をさしてきたから気になった
「オレは滑り止め受けなかったからわからないけど、同級生では北陵とか受けてたな」
北陵高校?
「どんな学校?」
「人数が多くて、良いのも悪いのもいる学校だ。北陵がどうかしたのか」
寛貴が聞いてきたけど、笠原さんの元彼氏がその学校かどうか、分からない。
「何もないよ」
「北陵とは関わるなよ。いいな?」
その言葉に少し驚いた。寛貴も葵と同じことを言う。
どうして?