放課後デート (1)
私は、登校拒否を続けている笠原さんの家に通い続けていた。
先生には申し訳ないけど、笠原さんを学校に来させようとは考えていなくて、女の子と話をしているのが楽しい。それだけの理由で訪問していた。
彼女のお母さんを交えて紅茶とケーキを頂いていたとき、私はずっと思っていたことを彼女に切り出した。
「ねぇ、笠原さん」
警戒されないようににっこりと笑った。
「なに?」
「放課後デートしない?」
突然そんなことを言われて、彼女は驚いているようだった。
「デート?」
私は頷いて力説した。
「制服のままで放課後にお茶したり買い物したりして、女子高生らしいことしない?」
いつも学校帰りはまっすぐ帰るか、葵に用事があってチームのところに連れて行かれるか‥
コジ君や愁君と過ごすのも楽しいけれど私は女の子と話がしたい!
拓弥君じゃないけど女の子に飢えているんだと思う。
「あら、いいじゃない。楽しそう」
笠原さんのお母さんは賛成してくれた。
「でも‥」
彼女は迷っているようだった。
「教室に行かなくてもいいと思う。午後の時間を生徒会室で過ごして放課後にデートしよう!」
私が、拳を握りしめて力説すると、笠原さんは少し笑った。
「行ってみようかな‥でも生徒会長は了承してくれるかな」
寛貴?了承させるわよ、させてみせる!
「今電話して聞いてみるね!」
彼女の気の変わらないうちに!と思い、笠原さんの前で電話をかけた。
『どうした?』
相変わらず素っ気ないというか、愛想がない。
「今話しても大丈夫?」
『ああ、何かあったか?』
後ろで「梨桜ちゃん?」と聞いている悠君の声が聞こえた。
「明日の午後に生徒会室を借りてもいい?」
私が言うと、寛貴は少し考えているようだった。
『理由は?』
「放課後デートしたいから!」
『は?デート?』
寛貴でもこんな風に驚くんだ。面白い発見だ。
「そう、放課後デート!笠原さんと放課後に制服のままお茶してガールズトークしたいの。それの待ち合わせに生徒会室を使わせて下さい」
後ろで今度は拓弥君が「梨桜ちゃんデートなのか?」って聞いている声がする。
「ダメ?」
時間をつぶしたいっていう理由じゃダメ?動機が不純すぎる?
『‥わかった。鍵はオレが持ってるから明日の昼に生徒会室で渡す』
「寛貴、ありがとう」
『梨桜、大丈夫なのか?』
そう言われて、何かあった?と考えた。
「何が?」
『門限』
そういえば私は“門限6時の箱入り娘”になってるんだ。
「‥理由を言えば大丈夫だと思う」
葵に言ったら監視をつけられそうだな‥いや、絶対監視をつける。
『ならいい。困った事があれば言え』
寛貴って意外に優しいよね、オレ様総長だけど。
「うん、ありがと」
『ああ、じゃあな』
電話を切った。
「笠原さん、大丈夫だったよ。生徒会室を使っていいって」
笠原さんはポカン。と私を見ていた。
「今のって‥藤島寛貴さん?」
「うん、寛貴」
そんなに驚くこと?
「東堂さんすごいね、藤島さんの事名前で呼べるんだ」
だって名前で呼べって迫ったし‥
あんなに怖い顔をしてせまられて名前で呼んでしまっているけど、基本的に、男の人の名前は呼び捨てしないことにしていた。
名前で呼ぶのは葵と憎たらしい幼馴染だけ。
迎えに来た葵に明日の事を話すと案の定、
「終わったら迎えに行く。それから近くに人をつける」
やっぱりね…そう言うと思ったよ。