水底に沈む…(3)side:悠
「梨桜ちゃん、君って…・」
拓弥さんも絶句している。
「え?…」
オレが梨桜ちゃんの顔を指差すと
「あ~っ!!」
ぱっと手で顔を覆ってしまった。
梨桜ちゃん、君ってすっげー美少女なんですけど?…
腰を浮かしてプールに手を伸ばした梨桜ちゃんを寛貴さんが押し止めた。
「無理だ。底に沈んでる」
「…あれがないと」
梨桜ちゃんは青ざめていた。今まで隠してたってことか?
「梨桜、とりあえず着替えろ」
「どうしよう、あれがないと私…」
ブツブツと何か言っていたが、梨桜ちゃんは立ち上がろうとして途中で動きが固まった。
「どうした?背中が痛むのか」
困ったような顔をして寛貴さんを見上げている。
「寛貴、安心したら‥腰が…」
「腰?痛いのか?」
寛貴さんが聞き返すと、梨桜ちゃんは首を横に振った。
「腰が抜けたみたい‥立てない」
寛貴さんは梨桜ちゃんを毛布で包んで抱き上げると、彼女の顔が周囲に見えないように自分に引き寄せた。
可愛い…梨桜ちゃん。
すっげー可愛い!!!
切羽詰まった状況を切り抜けて梨桜ちゃんの格好を改めて見ると、
頭の先からずぶ濡れで、セーラー服の白い布地が肌に張り付いていて下着の線も浮き出ていた。
寛貴さんが毛布で包んでしまって今どんな表情をしているのかは見れないけれど、さっき見た涙で濡れた彼女の瞳はとても綺麗だった。
寛貴さんは梨桜ちゃんを抱いたまま歩きだし、後をついて行ったオレと拓弥さんは互いの顔を見合わせてニヤリと笑った。
プールの入口でこちらを窺っていた生徒たちの前で立ち止まると、男達は一歩後ろに下がった。
「なぁ、おまえらさ。おまえらだったらあの先生を見捨てたよな?助けようなんて考えもしないだろ」
そこには散々陰口を言って来たクラスの連中と2年生がいた。
「今まで、自分達が彼女にしてきたことわかってんのか?」
拓弥さんが言うとオレは続けた。
「梨桜ちゃんは、おまえらと違って勉強しかできない奴じゃねぇからな」
オレ達の言葉に何も言い返さないクラスメイト達。
お前等は、プライドばかり高くて大切なことが何も見えていないんだ。
「勉強しか取り柄のないおまえらってマジでダセェな…いいか?今度梨桜に何かしたらオレ達が黙っていない。わかったな!?」
拓弥さんが凄むと、そこにいた連中はひるんだ。
あ~すっきりした!
生徒会室に行くと梨桜ちゃんは濡れた服を脱いで毛布にくるまっていた。
Tシャツとジャージを寛貴さんに借りたらしい。美少女が男物のTシャツを着てるってどうしてこんなに可愛いんだ?
梨桜ちゃんをまじまじと見ると、いつも眉を覆っていた前髪は捻りを加えて纏められていて、綺麗な形の額が見えていた。
形良く整えられていた眉と、少し勝気そうなアーモンド形の目が露わになっていた。
通った鼻筋と少し口角の上がっている形のいい唇。
しっかし…反則だろ?この可愛さ
「梨桜ちゃん、どうしてメガネかけてたの?あれは伊達?」
拓弥さんが聞くと、梨桜ちゃんは頷いた。
「うん。弟が学校ではメガネをかけるように言ったから」
「心配性な弟だね~。気持ちはわかるけど」
拓弥さんが苦笑いを浮かべていた。
確かに心配性だけど、元男子校のここでは、梨桜ちゃんにあのメガネをかけさせるのは正しい選択だ。
素顔の梨桜ちゃんを生徒会室の外に出したら、男達が群がってきそうだ。
「梨桜、学校ではメガネをかけてろ」
寛貴さんが言いだし、梨桜ちゃんは驚いていた。
「え?」
「いいからかけろ。生徒会室以外では外すなよ」
「そうだな、その方がいいよ。スペアとかないの?ないなら用意させるけど」
拓弥さんも同調し、梨桜ちゃんは首を傾げながら「スペアなら鞄に入っている」と返事をした。
確かに。今まで通りの外見の方が安全かもしれない。
「悠、取ってこい」
寛貴さんに言われて梨桜ちゃんの鞄を取って生徒会室に戻り、鞄を梨桜ちゃんに鞄を渡すと、中からメガネを取り出してかけた。
今までかけていた地味メガネとは少し違うメガネで、それをかけると見るからに頭が良さそうに見えた。
「これでいい?」
「ああ‥ここ以外では外すなよ?」
「そうだぞ、梨桜ちゃん。外すな」
寛貴さんと拓弥さんに言われて、梨桜ちゃんはコクコクと頷いていた。
梨桜ちゃんに着替えが届いて着替え終わった時、救急で搬送された教師の様態が伝えられた。
「入院するらしいけど命の危険はないらしい。良かったな、梨桜ちゃん」
拓弥さんが言い、オレはミルクティーが入ったカップを差し出した。
「良かった…」
ほっと笑う梨桜ちゃんは、めっちゃくちゃ可愛かった。
放課後、梨桜ちゃんを駅まで送った後に寛貴さんがオレに言った。
「悠、宮野の女を調べるのはもういい」
その言葉にオレも拓弥さんも驚いた。
「いいのかよ寛貴、何の情報もつかめてないんだぜ?」
「寛貴さん、どうしてですか?」
「宮野の女より、梨桜の素顔が周りの高校やチームに知られないようにしろ」
「あ~、紫苑生徒会唯一の女子が美少女でした。っていうのがわかったら梨桜ちゃんは狙われるかもしれないな。…おまえやけに梨桜ちゃんに拘ってたけど、素顔を見抜いていたのか?」
拓弥さんが、「おまえってすげぇな!」と言うと、寛貴さんは窓に顔を向けて目を閉じてしまった。