水底に沈む…(2)side:悠
「梨桜!」
寛貴さんが呼ぶと梨桜ちゃんが
「救急車!頭から出血してるの!」
「今呼んでる!」
梨桜ちゃんがプールサイドまで泳ぎつくと、寛貴さんと拓弥さんが教師を引き上げた。
オレが彼女の手を掴んでプールサイドに引き上げると、梨桜ちゃんは教師のもとに駆けつけて体を横向きにして背中を強く叩いた。
「タオルで頭を押さえて」
寛貴さんがタオルで頭を押さえると、梨桜ちゃんは変化を見せない教師の体を仰向けに戻した。
「このまま傷口を押さえててね?」
「ああ」
寛貴さんにそう言うと、梨桜ちゃんは教師の顔を上に向けて、顎を上に向けた。
まさか?
梨桜ちゃんは、何の躊躇いもなく唇をあてて人口呼吸を始めた。
「先生!高谷先生!」
呼びかけながら心臓マッサージを始めたけれど、教師はぐったりと意識をなくしたままだった。
根気強く人口呼吸とマッサージを続ける梨桜ちゃんを、その場にいた全員が遠巻きに見ていた。
オレと拓弥さんは生徒達をプールから出して梨桜ちゃんと教師から遠ざけた。
いつも陰で彼女の事を悪く言っている男達に、教師を助けようとしている梨桜ちゃんを見せたくなかった。
こんなカッコイイ女の子いない。
梨桜ちゃんの良さが分からないこいつらに、命を助けようとしている彼女を見せるなんて勿体ないよ
他の教師が駆け付けて、寛貴さんが梨桜ちゃんを教師から離したとき、意識を失っていた教師が水を吐き出した。
「良かったぁ‥」
苦しそうに肩で息をしていた梨桜ちゃんは、そう言うと、コンクリートの地面に座り込んだ。
「梨桜、頑張ったな」
タンカに乗せられて教師が運ばれて行くと、寛貴さんは救急隊員から渡された毛布で梨桜ちゃんをくるんだ
「梨桜?」
梨桜ちゃんは、泣いていた。
「怖かった…このまま…」
そう言うと、両手で顔を覆って深く息をついた。
寛貴さんは梨桜ちゃんの背中を撫でて宥めていた。
「梨桜ちゃん、風邪ひいちゃうから着替えようか?」
拓弥さんが声をかけると涙で濡れた顔をこちらに向けた。
「「…」」
その場にいたオレ達は言葉が出なかった。