空席の子 (2)
放課後、私は3人に宣言した。
「明日から、登校拒否をしているクラスメイトの家にプリントを届ける事にしたから放課後にここにきません」
悠君が怪訝な顔をして聞いた。
「梨桜ちゃん、午後の授業にいなかったのって‥」
「担任の先生と笠原さんのおうちに行ってきたの」
「オレ、具合悪くなったのかと思って保健室まで探しに行ったんですけど‥」
言わないで行って悪いことしちゃったな
「ごめんね、悠君。急に行くことになったから」
「今度からせめてメールしてよ」
私が頷くと、拓弥君が悠君に
「登校拒否?ウチの学校にそんなやついたのか」
悠君は腕組みをして考え込みながら言った。
「入学して一週間は来てたけどそのあと来なくなった‥はず。あんまり覚えてない」
「梨桜、あんまり深入りするなよ。何か不審な事があったら言え」
寛貴がそう言ったけど、不審なことってなんだろう?
笠原さんもどこかのチームに入ってるとか?…まさかね。きっと寛貴の考えすぎだよ。
「うん、ありがとう」
葵に話したら、寛貴と同じようなことを言った。
「無理するなよ?体調を考えて行動しろよ」
「うん、わかってる」
‥----
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「笠原さん、今日のプリントだよ」
私が笠原さんの家に行っても、嫌な顔をしないでニコニコしながら出迎えてくれるから、迷惑がられているわけではないみたい。
「ありがとう、東堂さん」
彼女は1人で勉強しているらしい。授業を受けないで勉強できるなんて頭がいいんだな‥
「笠原さん、今日の宿題を一緒にやってもいい?」
私がそう言うと、少しはにかみながら頷いてくれた。
彼女はやっぱり普通の女子高生だと思うんだけど‥寛貴と葵が言うような不審なところなんか何もないよ?
「東堂さん、聞いてもいい?」
問題を解いていると、笠原さんが遠慮がちに言った。
「なぁに?」
「今の生徒会って誰がやっているの?」
美味しい紅茶を頂きながら私は答えた。
「藤島寛貴と大橋拓弥と海堂悠と私‥無理やり入れられたんだよね」
彼女は驚いていた。
「東堂さんって朱雀なの?」
「みんなそう聞くね‥違うよ。チームには入ってないよ」
やっぱり、紫苑というか、生徒会=朱雀なんだなぁ
「そうなんだ。紫苑学院を志望する女の子は朱雀に憧れている人がほとんどだから」
という事は、笠原さんもあのオレ様とチャラ男に憧れているの?
「会ってみる?授業に出なくても生徒会室でお茶を飲むとか。少しなら会長と副会長とも話せると思うよ」
学校に来たくなるなら寛貴にお願いしてもいいな。と思ってそう言うと彼女は「違う違う」と首を横に振った。
彼女が「違う」と言ったことが少し嬉しかった。
「私は朱雀目当てで受験したわけじゃないから。‥憧れてないといえば嘘になるけど‥」
「ふぅん‥私に言わせるとみんな目がおかしいよ?オレ様会長にチャラ男副会長だよ?確かに口を開かなければカッコイイけどさ。まだ東青の副会長の方がフェミニストだよ」
「会長は?東青の宮野会長とは話したことある?」
葵ねぇ‥
「あ~‥彼はオレ様で、たまに意地悪」
笠原さんは目を丸くして驚いていた。
「東堂さんて面白いね」
「内緒だよ?」
私がそう言うと、彼女は笑い出した。
「笠原さんさえ良ければ、生徒会室でお茶を飲みながらおしゃべりしたりしない?あ、無理に学校に来いって言ってるわけじゃないよ?男ばっかりでつまらないから言ってるだけだからね?」
彼女の重荷にならないように訂正すると、少しだけ顔を強張らせて小さく頷いた。
学校に来るのはまだ無理なのかな…
「気を遣わせてごめんね」
申し訳なさそうに言う彼女に私の方が申し訳なくなってしまった。
「私こそごめんね」
そう言うと首を横に振ってもう一度小さく「ごめんね」と言っていた。
「自分でもわかってるの。学校に行けなくなった理由もくだらないことだってわかってるの。でも…」
「笠原さん!ゆっくりでいいと思うよ?私が勝手に会いに来てるんだから、自分を責めないで。‥ね?私は笠原さんと一緒におしゃべりをしながら宿題をしたりするのが楽しいの」
「東堂さんは優しいね」
彼女の言葉に今度は私が首を横に振った。
「そんなことはないよ。今だって笠原さんに嫌な思いさせたし…」
少しの間沈黙が続いてしまった。
黙っていると、何故だか可笑しい気分になってしまい、私達は顔を見合わせると同時に笑い出した。
「お互いにフォローするのやめよう?」
「うん、そうだね。生徒会室に行きたくなったら東堂さんにお願いするね」
笠原さん、早く心の傷が治るといいね…