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秋桜  作者: 七地
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定例会 (1)

日課になった朝の挨拶


「じゃあな、放課後」


「うん、またね。桜庭さん、行ってきます」


「行ってらっしゃい。梨桜さん」


葵と桜庭さんに手を振って駅に向かった。

手には新しいダミーの制服


手首を捻挫してからおさげをやめてサイドで緩く纏めている。

くせ毛で何もしないと毛先が自然に巻いてしまう私の髪を、学校の男達は陰で『ガリ勉メガネが色気づいた』と言っている。


しょうがないでしょ?生まれつきなんだから!私だって葵みたいなサラサラスなトレートが良かった。


悠君が心配してくれて傍にいてくれるから、危険はないけれど陰口は止められないらしい。




‥-----

    -----


「梨桜ちゃん、休憩にしよう?」


「このページが終わったらね」


試験対策で悠君に勉強を教えている私。


「り~おちゃ~ん」


葵のところでコジ君にも勉強を教えている。

葵と愁君はスパルタで、間違うごとに拳が飛んでくるらしく、泣きつかれて家庭教師を引き受けた。


私はといえば、復習をしながら、学校に行けなくなった辺りから勉強をしていた。

習っていないところは葵に聞いたり愁君に聞いたりしながらやっと去年の冬あたりまで進んできた。


悠君が机に突っ伏してわめいた。


「数学なんて必要ね~じゃん!」


匙を投げているのか、本人の自主性に任せているのか、寛貴と拓弥君は悠君の事は見て見ぬ振り。


「数学はね、考える事を学ぶ為の教科なんだよ?答えを導く為の過程を勉強するの。ね?」


わかった?と聞くと悠君は目だけをこちらに向けた。


「それ、梨桜ちゃんの持論?」


「そんなわけないでしょ。札幌でお世話になった人の持論だよ?」


入院しているときにボランティアで勉強を教えに来ていた大学生が言っていた言葉を思い出しただけ。


「世話になったのって、男?」


「うん」


「独身?」


「うん」


いいから早くプリントやろうよ?


「若い?」


それって関係ないよね?


「…なんで?」


「気になったから」


彼は見捨てて帰ろう。


私はもう一人の、可哀想な子の勉強を見に行かなければいけないのだから


「ふ~ん…私そろそろ帰るから、明日までにこのプリントやっててね?」


「梨桜、送る」


「はい」


最近は“送る”“いい”の言い合いに疲れて駅まで送ってもらっていた。



一駅だけ電車に乗り、駅につくと新しい制服に着替えて桜庭さんの車に向かった。


今度の制服はワンピース型のどこかのお嬢様学校の制服らしい。

いったいどこから手に入れてくるのか気になったけど、もしも愁君の趣味だったら困るので黙っていた。



駅のロータリーの隅で男達の言い合う声が聞こえて、通りすがりに見ると悠君がいて、数人の男に絡まれていた同じ紫苑の生徒を庇っているようだった。


思わず立ち止まって見ていると、


「そんなところにいたらダメだよ」


「愁君」


肩を抱かれるようにしてその場から離されて車に乗った。


「梨桜さん、危ないからやめて下さいね?」


桜庭さんに言われて頷いた。車の中から外を見ると、まだ喧嘩をしているようだった。

悠君の裏の顔を初めて見た。


「愁さん、朱雀の車がありますけど、どうしますか?」


「構わない。そのまま行け」


今日はこちらもフルスモーク仕様だから私が乗っているのは見えないはず。

さっきまで乗ってきた車を横目に見て、私を乗せた車はすれ違った。




「昨日な、あの後ケンカしてた奴の助けに入ったんだ。そのチーム潰してきたからプリント出来なかった」


次の日、悠君は「ごめんな?」と首を傾げて可愛く言った。


見てたから知ってるけど…チーム潰してきた。とか可愛らしく言わないでほしい。


「怪我しなかった?」


「オレは大丈夫!‥1年のヤツが病院に送りにされたけどな」


“病院送り”その言葉に思わず眉根が寄ってしまうのがわかった。どうしてそんなに危険なことをするの?


「昨日、青龍の車がいたんだよな~」


拓弥君が言った


「梨桜ちゃんの家がある辺りって青龍のシマなんだけどさ、噂とか聞いたことない?」


悠君がプリントから顔をあげて聞いてきた。


「噂?」


「東青のトップの彼女がどんな女なのか全然情報が入らないんだよ。溺愛してるらしくてガードが固すぎるんだ」


溺愛って…それ違うから。彼女でもないし。


「引越してきたばっかりだからわからないなぁ。女の子の友達もいないし‥」


「そうだよな、ごめんな」


二人に気付かれないようにそっと息を吐いた


「梨桜、何か飲むか」


「あ、うん。リンゴがいい」


寛貴は冷蔵庫からペットボトルを取り出し蓋を外して目の前に置いてくれた。

悠君はプリントの問題が進まずにごちゃごちゃと何か言っている。


「梨桜ちゃんが倉庫に来てくれたら勉強はかどるんだけどな~」


彼の戯言を横目で見て、ペットボトルに口をつけて一口飲んだ。


「梨桜ちゃん、倉庫に来ないか?」


目をキラキラさせて言われても無理。絶対にそれだけはできません。


「悠君が家に帰って真面目にやればいいんじゃない?」


「じゃあ、オレんちに来るか?大歓迎だぞ!」


「悠、口を動かす前に頭と手を動かせ!」


拓弥君にぱこっと教科書で叩かれていた。


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