初夏の休日
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熱も下がって元気になった週末、青龍のチームハウスでぼんやりしていた。
「つまらない」
コジ君は試験の成績が悪かったらしく、愁君と葵に怒られていて一生懸命勉強している。
ヤンキーなのに勉強なんて可哀想に…
「葵、お買いものに行ってきてもいい?」
ソファで眠っている葵に問いかけるとチラッと私を見て冷たく言った。
「ダメ」
「じゃあ、葵も一緒に行こう?それならいいでしょ?」
「朱雀に探されてんだろ?欲しいものがあるなら買ってきてやるから言え」
また目を閉じてしまった。
本当につまらない。
「‥下に行ってる」
寛貴から聞いた「葵が拾った紙」の事は葵が何も言わないから私も黙っていた。
「敷地から出るなよ」
「うん」
知っていて葵が言わないのは『聞いて欲しくない』から。
寛貴の言葉から葵が何か言ったんだろうなって想像できたから私も黙っていることにした。
1階では男の子たちが集まって楽しそうにわいわいやっていて、それを横目で見ながら外に出ると何も植えられていない荒れ果てた花壇の前に立った。
暇すぎるし‥土いじりでもしようかな…
雑草だらけの小さな花壇を前にして腕まくりをした。
2つある花壇のうち、1つを花で一杯にして、もう1つは食べられるものを植えよう!
やる気が出てきた私は、男の子達に声をかけた。
「あの、ちょっといい?」
「はい!」
そんなに構えられると傷つくな‥
「軍手かゴム手袋があったら借りてもいいかな?」
「もちろんですっ」
葵と愁君をちょっと恨みたくなった。
このチームで私の事をなんて言ってるの?私、彼等にすっごく怯えられちゃってるんだけど!?
赤い髪の毛をした男の子は私に新しい軍手を出してくれた。
「ありがとう。借りるね?」
軍手をもらい2階にいる葵のところに向かった
「葵!汚れてもいいシャツ貸して」
「…何する気だ?」
「花壇の草むしり」
クローゼットから1枚のシャツを取り出すと、私に投げた。
「これ?」
「昔着てたやつ。今は小さいからやる」
濃いグレーの半そでシャツをもらい、Tシャツの上に来ていたチュニックを脱い
で葵のシャツを着た。
小さいっていうけど、私が着てもお尻がすっぽりと隠れる長さで十分大きい。
葵はまたソファに座って眠りに入った。今日の葵は寝太郎だ。
軍手をはめて、張り切って花壇に戻ると雑草をむしりだした
ブチブチと雑草とりに熱中していると
「梨桜さん、何してるんですか?」
私に声をかけたのは桜庭さんだった。年上なのに私に丁寧に話をしてくれる
「桜庭さん!草むしりしてました」
ちょっと驚いた顔をしていた。
不良の溜り場で草むしりって‥意外だよね。
「草むしり?何か植えるんですか」
「桜庭さんはトウモロコシとかぼちゃどっちがいいですか?」
「え?」
突然聞かれて驚いている。
いつも運転席と後部座席でばかり会話をしているから、こんな風に正面を向いて話すのは新鮮だ。
「どうせなら食べられた方ががいいかな~と思って」
「かぼちゃとかがいいんじゃないですか?あまり育たなくても加工しやすいと思いますけどね」
そうだね、かぼちゃのプリンとか、タルトとか、パイとか‥美味しいもんね!
「じゃあそうします!」
「手伝いますよ」
「ありがとうございます」
二人で草むしりをしていると
「梨桜さ~ん!オレもやります」
コジ君が来た
「愁君のお勉強は終わったの?」
「やっと解放されました」
3人でぶちぶちと草むしりをしていると視線を感じた
幹部と総長の女(みんなそう思い込んでいる)と幹部の運転手が草むしりをしているのが珍しいらしい
「肥料を足して花の種と野菜の苗を買いに行きたいな」
「葵さんに外出の許可をとってきます!」
私は首を横に振ってコジ君を見た。
「コジ君、さっき駄目って言われたの」
そうなんですか、と残念そうなコジ君
私はいいことを思いついた
「私、変装していけばいいんじゃない?」
「何にですか?」
「男の子とか」
「そんな可愛い男いませんよ」
「葵だって男のくせに美人じゃない」
「あの人は別格です」
別格。って言い切られちゃう葵が羨ましいな。と思いながら、何とか買い物に行ける方法を考えていると
「…おまえらごちゃごちゃうるさい」
葵が腕を組んで立っていた。
「梨桜、土いじりしたらすぐに洗え。また手がかゆくなるぞ」
「うん。ねぇ葵、ホームセンターに行きたい」
「…何を買うんだ?」
「花の種と野菜の苗と肥料」
「桜庭、コジと一緒に連れて行ってやれ。それから誰かつけさせるから」
やった!
服を着替えて桜庭さんの運転する車で買い物に出た
コジ君と何の花を植えるか相談して、向日葵とコスモスとかぼちゃの苗を買い、
ホームセンターを後にした。
帰ってから皆でお昼を食べた後に種まきをして、私はお昼寝をした。
目が覚めたら隣で葵が寝ていた。
今日の葵は良く寝るな‥昨日寝てなかったんだろうか?
愁君は葵に呆れていたけれど、私は葵がいてくれたおかげでぐっすりと眠ることができた。