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秋桜  作者: 七地
257/258

還る場所  (12)

…向き合うのが怖かった。


でも、身体だけじゃなく心とも向き合っていかなければいけないって思えるようになった。




「お名前を教えて貰えるかしら?」


涼先生にその事を伝えたら、このクリニックを紹介してくれた。


「東堂梨桜です」


「梨桜ちゃんね?そんなに緊張しないで?」


ギュッと握りしめていた私の手に温かい手が重ねられた。

ここに来るって決めた時から、何を聞かれるんだろうって緊張してた。


「今日はあなたの事を教えてね?」


目の前で微笑んでいる女性の先生はふんわりと笑って私の両手を握った。




「それじゃ…また来週お茶を飲みにいらっしゃいね?」


「ハイ」


優しい笑顔の先生の言葉に頷いて、温かい雰囲気の部屋を出た。


待合室でソファに座って待っていてくれた葵の前に行き、手を伸ばすと握ってくれた。


「どうした?」


私の顔を覗き込む葵。


「凄く緊張したけど、思ってたより平気だった」


隣に座り繋いだ手に力を入れると、頭を撫でてくれた。

葵に『カウンセリングを受ける』って話した時は驚いていたけど、すぐに『分かった』と言ってぎゅってしてくれた。


「頑張ったな」




「もっと早く来れば良かったのかな」


クリニックからの帰り道、葵の横顔に呟くとすぐに私の顔をジッと見て口を開いた。


「時間が必要だったんだよ」


「今までありがと。葵がいてくれて良かった」


肩を引き寄せて髪をクシャクシャにしながら頭を撫でてくれた。


「今頃分かったのかよ?」


「へへ…」


当たり前だと思っていたけれど、一緒にいられる事が、大切で感謝しなければいけない事なんだって分かったよ。


それとね、葵はまだ嫌な顔をするかもしれないけど、皆にも『ありがとう』だよ。

私、ここに帰ってきて、あの学校に転校して来て良かった。




・・――――

   ――――・・




普段通りの毎日、彼等と一緒にいる生活を過ごしていると穏やかな気持ちになれた。


「梨桜さん、分かりません」

「分かんねぇよ、こんな問題を出す方がおかしいだろ」


朱雀の倉庫で試験前のお勉強会。


「おまえら…マジで救いようがねぇな」


「拓弥君!そういう事言わないの!!」


私はコジ君と悠君へ数学を教えていたんだけど、勉強が必要のない人達までテーブルを囲んでいるから彼等は居心地が悪いみたい。


「もう一回、問題文をよく読んでみて?」


葵と愁君が札幌に行って由利ちゃんと何を話して来たのかは何回聞いても教えてくれなかった。

教えてくれないものは仕方がない。と諦めて、彼女との事は忘れようって決めた。


でも、一つだけ教えて貰った。


愁君はニッコリ笑って葵に『ごめんなさい』って言ってたよ。と教えてくれたけど、どうしても素直に信じられなかった。


「これじゃ、来年の生徒会長は梨桜ちゃんだな」


愁君が突然言いだし、拓弥君も頷いていた。

何を言い出すの!?


「私、喧嘩できないよ」


「オレがするからいい」


寛貴まで真顔で何を言っているの!


「そうだな、梨桜が生徒会長になったら誰もちょっかい出さなくなるだろ」


葵まで!!


「紫苑の新生徒会長は、寛貴の彼女で宮野の姉貴で初代の姪。…すっげーな」


拓弥君の発言にムッと眉根を寄せた。

なんかそれって七光りだらけじゃない?7×3で21…


「何を好き勝手な事言ってるの!生徒会長なんて無理!」


机をバン!と叩いて言うと寛貴がクッと笑いながら悠君を見た。


「悠、赤点だらけの会長なんて許されないからな。分かったら今回のテストから卒業まで平均点+10点を取れ」


「はぁ!?」


凄いこじつけ…でも、成績が良いのは何かと便利だと思うよ?

視線を感じてそちらを見るとコジ君が私を見てニコニコしていた。


どうしたの?そんなにニコニコして…

コジ君の笑顔につられて笑みを返すと益々笑っていた。


「コジ、おまえもだぞ。大体、幹部が赤点を取るなんて前代未聞なんだからな」


愁君に言われてコジ君は一気に顔を引き攣らせた。


「え!!」


「え、じゃねーよ。梨桜に教わっておきながら平均点以上の点が取れないなんて許されると思ってんのか」


葵にまで言われて、今度は泣きそうな顔を私に向けた。


「梨桜さん…卒業まで教えて下さい」

「小嶋だけズルいぞ!梨桜ちゃん!オレにも教えて!!」


「おまえらさ…梨桜ちゃんと同じ選択教科取るのか?それこそ無謀じゃねぇ?」


「取り敢えず、今は試験の勉強をしようね。赤点取ったら冬休みが短くなっちゃうよ?」


「梨桜ちゃん、楽しそうだね」


愁君の言葉に頷いて、部屋の中を見回した。


葵と寛貴がいて、皆がいて…ワイワイと騒いでいる。

こんなやり取りが楽しいと思う。


チームとかライバル校とか、そんな垣根を取り払って、こうやって仲良くしていけたらいいね。





-おわり-



.


完結しました。


自己満足で書き始めた物語が気がつけば1年以上…その間、大震災での中断や更新を停滞させてしまったり。。

その度にいつも温かいコメントを頂いて本当に嬉しかったです。


ここまでお付き合いして頂いた皆様に、感謝の気持ちでいっぱいです!


感謝しても感謝仕切れません。


本当にありがとうございました!


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