還る場所 (9) side:円香
由利、アンタは敵に回してはいけない人達に喧嘩を売ったんだよ…彼等が梨桜をどれだけ大切にしているか分からなかったの?
梨桜をあんな酷い言葉で傷つけて…私だって許せないよ。梨桜が傷ついた以上の酷いことを仕返ししてやりたい。
「撒いてやるよ。キミの恥ずかしい写真」
自分の情けない恰好を撮られている由利は三浦君の言葉を聞くと青ざめて首を横に振っていた。
「イヤ、ごめんなさい」
失禁した写真をばら撒かれるなんてプライドの高い彼女にとっては屈辱だろう。
でも、彼女が今まで梨桜にしてきたことを考えれば、三浦君と同じ『これくらい』と残酷な気持ちになってしまった。
敬彦はどう思っているのか分からないけれど、唇を固く結んで彼らのやり取りを見ていた。
彼にとっても梨桜は大切な友人、由利に対して腹立たしく思っているのは知っている。
「これで終わりだと思ったら大間違いだ。お前には落ちて貰う」
葵君は冷たい声で言い、口角を上げて笑った。
「由利ちゃん、人の男を寝取るのが趣味な君が好きそうなところに連れて行ってあげるから。楽しみにしてて」
そう言うと、黒塗りの国産高級車が私達の前に停まった。
中から降りてきた男を見て、由利は目を見開くとズルズルと後ずさりを始めた。三浦君が逃がさないように襟首を掴むとジタバタと由利は暴れだした。
「どーも、東京からわざわざ来たんスね」
「あぁ…こっちの用は済んだ。後は好きにしろよ」
葵君に頭を下げた見るからに不良の彼は由利の前にしゃがみ込んだ。
「アンタもバカだな。地元だけじゃ飽き足らずに紫垣の姫さんにチョッカイ出すなんて…」
彼は何なの?
敬彦を見ると眉根を寄せて由利を見ていた。
「札幌で一番大きなチームの幹部だ」
「まぁ、それだけじゃなくアンタはイロイロ恨みを買いすぎたようだな」
「浅はかなキミは、誰の男を寝取ったか…そんな事は考えもしないんだよね?それとも、その事を自慢しているから、後に起こることも考えない。そっちの方が合ってる?」
三浦君から不良の男に引き渡された由利は黒塗りの車に無理矢理乗せられた。
何なの?どういう事?
「三浦君」
私が声をかけると三浦君は梨桜に向けているのと同じ笑顔を私に向けた。
さっきと別人…
「女の子には見せるべきモノじゃなかったね」
肩を竦めて言う彼に「由利はどうなるの?」と聞くと葵君が煙草に火を点けながら走り去る車を見ていた。
「さぁ…系列にレディースチームがあるのは知ってる?そこの総長の彼にちょっかい出して、今日、彼女に制裁を加える予定だったらしいよ」
いつまでもバカな事をやっているからそうなるのよ。
「無理を言ってその前に時間を貰ったんだ」
大した用事じゃないような口ぶりに何も言えないでいると、敬彦が口を開いた。
「東京からその情報を掴んでチームと話をつけたのか?」
「ああ、大橋とオレで『紫垣』として交渉したから話が早かったよ。オレ達が手を汚さなくても、アイツらがあの女を制裁してくれる。…まぁ、かなり酷い目にあうんじゃないかな。…可哀想だね」
心にも思っていないだろう言葉で締めくくる三浦君を葵君はジロリと睨んでいた。
「自業自得だろ。それよりもオレは東京に戻る」
「オレはどう始末をつけたのか見届けてから帰る」
葵君は私達に「落ち着いたら連絡させる」と言いタクシーに乗った。
由利、アンタは本当にバカ…
由利が酷い目にあわされるって分かるけれど、傷つけられた梨桜の心の方が心配で、やっぱり同情できない。
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