還る場所 (8) side:円香
『東堂の様子が最近変じゃなかったか?って東京から電話が来た。何か知らないか?』
敬彦に聞かれて、最近中学が同じだった友達に梨桜の事を聞かれたのを思い出した。
彼女から聞いたあまりにも腹立たしい話。
それを三浦君に伝えて、私と敬彦が梨桜を心配していたら…
突然、葵君と三浦君が北海道に乗り込んできた。
『どうしたんだ?』と聞く敬彦に葵君と三浦君は『落とし前つけてもらいに来たんだよ』と言って笑っていた。
そして、学校が終わるのを見計らって敬彦の通う学校の門の前で由利が出てくるのを待っていたんだけど…
綺麗すぎる。
整った顔が怒りに満ちていても見惚れてしまう。
現にこのバカな女も、怒りを向けられているのにその綺麗な顔に見とれて頬を染めていて、壁に追い詰められているのに恐怖を感じていないらしい。
「ムカつくから梨桜のデータを売ってやったのよ!」
由利の高笑いが響くとガシャン!と凄い音がして何かが拉げる音がした。
「ひっ…」
由利の顔の横スレスレに葵君の拳が叩きつけられていた。
「そんなに楽しいか?」
「梨桜ちゃんが君に何かしたの?」
三浦君が聞くと由利は顔を歪めるように笑っていた。
「梨桜なんか転校して来なければ良かったのに。皆が梨桜、梨桜って…」
三浦君の笑みがとても冷たくて…
敬彦と顔を見合わせると、彼は息を飲んで彼等を見ていた。
「それは、自意識過剰だね。鏡を見て分からない?彼女は綺麗で可愛いよ。でも、君は歪んでいて醜い。彼女と比べる事がおこがましいんだよ」
あくまでも穏やかに、笑みを浮かべながら淡々と言う三浦君が怖かった。
「…それだけじゃねぇだろ?梨桜に何をした?」
「何の事?」
とぼける由利の襟首を掴んで、葵君は容赦なく締め上げていた。
その隣で三浦君は冷酷に告げた。
「勿体ぶらないで早く言いなよ。葵はキレたら手がつけられないよ。まぁ、オレは止めるつもりはないけどね」
「いった…」
痛いからなのか、怖いからなのか…由利の目から涙がボロボロこぼれ落ちている。
「汚ぇ泣き顔。梨桜とは大違いだな、ブス」
梨桜とは大違い
きっとそれは由利が一番嫌いな言葉。
由利は葵君を睨み付けると唇の端を上げた。
「私だって可愛いのに…梨桜なんかボロボロになればいい!」
「さっさと吐けよ」
なおも締め上げる葵君を睨みながら由利は楽しそうに話し始めた。
「梨桜が目を醒まさなければ母親は助かったかもねって言ってやったのよ!」
葵君の顔が青ざめたように見え、由利は満足そうにククッと笑った。
「図星だった?」
「酷い事を…」
三浦君が眉根を寄せると由利は得意気に続けた。
「私、梨桜が入院してた病院の医大生に聞いたのよ。アイツが意識を取り戻した日に母親が死んだって。医大生が感動した。とかバカな事言ってたけどね」
「てめぇ…」
葵君は由利をギリギリと締め上げ、それを横目で見ながら三浦君がどこかに電話をし始めた。
「梨桜、何も言えなくなってたわ。いい気味!」
葵君はフェンスに叩きつけた手を自分に引き寄せて由利の顔を目掛けて振り上げるとガシャン!とさっきよりも派手な音がした。
「沈めてやるよ…」
「ひっ…」
情けない声を出すと由利はズルズルと地面に座りこみ、葵君は長い足を上げて由利の顔の横を蹴りつけた。
「きゃああっ!」
網状のフェンスが完全に形を変えていた。
「汚ねぇのは顔と根性だけじゃねぇな。愁、見ろよ」
ガタガタと震えながら座り込んでいる由利の足元から水の染みが広がってきた。
「口ほどにもないな…さっきまでの憎たらしいキャラはどこへ行ったの?」
三浦君はそう言うと、携帯電話を由利に向けて写メを撮っていた。
何枚も撮って保存している。
「イ…ヤ、やめて、撮らないで!」
「イヤ?…冗談だろ?ウチの姫を傷つけたんだ。これくらいは覚悟してもらわないとね」
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