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秋桜  作者: 七地
252/258

還る場所  (7)


慧君に場所を聞いたらどうしても行きたくなって部屋を出た。


ママが気に入っていた秋桜が咲く場所。



「梨桜さん!」


マンションを出たところで呼び止められた。


コジ君?


「どうしてここにいるの?」


学校に行っている時間なのに、彼は私服姿でマンションの前に立っていた。


「梨桜さんが心配だからです。どこにいくつもりですか?」


いつものコジ君とは違う鋭い視線と厳しい口調で問われて「鎌倉」と行き場所を告げると驚いた顔をして聞き返された。


「え?」


鎌倉に行きたいの。


「葵さんが戻ってからでも、今日じゃなくてもいいですよね?」


引き止めようとするコジ君に首を横に振って歩き出そうとしたら腕を掴まれていた。


「コジ君、離して?」


「駄目です。オレ、葵さんに約束したんです。梨桜さんがどこかに行かないように見てるって」


でも…今、行きたい。

今じゃなければいけないような気がするの。


「お願い。行かせて?」


「嫌です。行かせるわけには行きません」


頑なな彼に困っているとバイクの音が近づいてきた。

コジ君が怪訝な顔をして後ろを振り返ると、目の前でバイクが止まった。

もしかして…寛貴?


「誰だよ…」


ヘルメットを取ったその人はやっぱり寛貴だった。


「おとなしくしてろって言ったよな?」


目を眇めて言われ、どうすれば鎌倉に行かせてもらえるのかと考えているとコジ君が私の手を引いた。


「梨桜さん、まだ顔色が悪いです。我儘言わないで今日は休んで下さい」


「どこに行くつもりだった?」


寛貴にも駄目だって言われて怒られたらどうしよう…


「梨桜」


厳しい声で呼ばれ、顔を見ると既に怒っていた。

コジ君が私と寛貴の間に立つと「鎌倉に行きたいって言い出したんだよ。なんで一緒に居ないんだよ」と寛貴を責めていた。


「鎌倉?」


寛貴が聞き返すと、コジ君は私に向き直り「梨桜さん、ダメですよ」と念を押すように言い部屋へ戻るようにと続けた。


「鎌倉に行きたいのか?」


コジ君を無視した寛貴は意外そうな顔をして聞いた。

きっと駄目だって言われるんだろうと諦めていると、私の顔を覗き込んで「そこに何があるんだ?」と聞かれたけれど、答えられなかった。


何があるんだろう?

どうして私はこんなに行きたいんだろう…


「分からない。…でも、行きたいの」


そう言うと、寛貴は私の両脇に手を掛けて体を持ち上げてバイクに乗せ、ヘルメットを被せた。


「梨桜さんを乗せるなんて何考えてんだよ!!」


バイクに跨り「絶対に離すなよ」と言いながら自分の腰に私の腕を回させると、怒っているコジ君を置いてバイクを走らせた。




「バイクで鎌倉に行くのかと思った」


寛貴は駅バイクを止めると私を降ろし、改札口へ連れて行ってくれた。


「それは危険すぎるだろ」


日中の電車は空いていて席に座ることが出来た。

電車の中で、手を繋いでくれた寛貴は景色を眺めていた。窓から射す日差しが温かさが心地好かった。



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