還る場所 (2) side:コジ
ソファに座って目を閉じている葵さんの顔色が悪いような気がする。
寝不足だって言っていたけれど、きっとそれだけじゃない。
「梨桜ちゃんの様子は?」
青龍のチームハウスで梨桜さんは葵さんの部屋で眠っていて、傍には藤島がついていた。
昨日の梨桜さんは取り乱して、途中で意識を失って…明らかに様子が変だ。
「…朝は落ち着いているように見えた」
葵さんの答えを聞いた愁さんは、眉間に皺を寄せて厳しい顔をしながら梨桜さんの携帯を見ていた。
昨日発覚した、梨桜さんの携帯への異常なほどのメールの着信数。
今日もひっきりなしにメールが届いていて、それを確認する度に葵さんと愁さんが不機嫌になっていく。
「矢野は?」
葵さんは梨桜さんの携帯を手に取り、画面を見ながら舌打ちをしていた。
「何も知らなかったみたいだな。矢野の彼女が何か聞いていないか確認させてる」
愁さんは自分の携帯を弄りながら答えていた。その向かいでは不機嫌そうな顔をしている海堂がいた。
大橋は出かけていて居ない。
「梨桜ちゃんに、何があったのか聞ければ一番いいんだけど…」
「あの時と同じなんだ。少し、時間をくれ」
そう言うと、また目を閉じた。
梨桜さん、何があったんですか?
何がそんなに梨桜さんを苦しめているんですか…
力になりたい、オレはそう思っているんです。
きっと不機嫌そうな顔をしている海堂も思っていると思います。
「――ハイ。あぁ、円香ちゃん?」
愁さんの言葉に葵さんの目が開いた。
じっと愁さんを見ている。
「休みの日なのに悪い。……あぁ、梨桜ちゃんは眠ってるよ。携帯はオレが持っているから安心して」
矢野の彼女で梨桜さんの親友。
愁さんから矢野へ、彼から彼女へ。事情が伝わって、今電話が来たという事は何かが分かったんだろうか?
「――は?…マジかよ」
急に低くなった愁さんの声に葵さんの眉根が寄せられた。
絶対に良くない話だ。
「―――君達は何もしないで欲しい。やるならコッチが徹底的にやるから。梨桜ちゃんも君達が関わるのを良しとしない筈だ。―――分かってくれるかな。――取りあえずありがとう。そこまで調べてくれて助かった。また何か分かったら連絡するよ」
電話を切ろうとしたその時、幹部室の扉が静かに開いた。
「梨桜さん?」
藤島に支えられるようにして梨桜さんが立っていた。
「心配かけて、ごめんなさい」
「っ!」
海堂が唇を噛んで梨桜さんを鋭い目で見ていた。
梨桜さん、どうしてこんな時に笑うんですか?
泣きそうな顔で、笑わないで下さい。
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