泡沫 (8) side:悠
部屋の外が慌ただしくなり、扉が開くと息を切らせた宮野が入ってきた。
「早かったな」
「梨桜は!?」
コイツらしくない、焦った顔をしている。
「隣。取りあえず体を温めさせてる。おまえ、三浦がオレに電話をしてから彼女の携帯に連絡したか?」
ソファに座り首を横に振る宮野。
だったら、誰がこの携帯にかけてんだ?この着信件数、異常だぞ。
「それがどうかしたのか」
「この携帯電話、さっきからメールが届きまくってんだけど…これ、異常だぜ?」
さっきからひっきりなしに着信を知らせる携帯。
心配した宮野と三浦からだと思っていたから気にしなかったけれど、この二人じゃないのならこの件数は異常だ。
扉が開き、梨桜ちゃんと寛貴さんが戻って来た。
やっぱり彼女は虚ろな目をしているように思える。
「梨桜?」
声をかけられてビクッと肩を震わせた。
宮野に怯えるなんて…マジで何があったんだよ?
寛貴さんが彼女をソファに座らせると、宮野が梨桜ちゃんの携帯を手にした。
「やだ、ダメ」
梨桜ちゃんが手を伸ばして携帯を取り返そうとすると宮野が鋭い視線を向けた。
「藤島、押さえてろ」
寛貴さんが宮野にすがりついて携帯を取り返そうとしている梨桜ちゃんを後ろから羽交い絞めにして、自分の胸の中に抱き込んだ。
宮野は表示された画面を見て目を見開いていた。
「梨桜、パスワード」
「やめて、返して」
「早く言え」
「‥‥」
黙る梨桜ちゃんに視線を向けながら携帯を操作している。
「葵、返して」
「1214」
宮野が4ケタを口にしたけれど、梨桜ちゃんは何も言わないでジッと手元を見ていた。
「0518」
何も言わない。
いくら双子でも、暗証番号まで分かるのかよ?疑問に思っていると、宮野は彼女の顔を見たまま口を開いた。
「‥‥9718」
梨桜ちゃんがぎゅっと目を閉じた。
まさか…?
「やめて葵」
「諦めろ」
宮野は携帯のロックを外し操作をしていた。画面を凝視したまま、段々顔が強張っていった。
携帯は着信を知らせるランプが点滅したままだ。
「ヤダ、止めて。見ないで、イヤ!」
悲鳴のような声をあげて宮野に手を伸ばしているけれど寛貴さんに止められた、
「SMSメールがフルに受信されている。最近、連絡がつきにくくなったのは、これが原因で携帯の電源を落としているから?」
三浦の問いかけに、弱々しく首を横に振って「やだ‥」と泣きそうな顔をしている。
宮野が寛貴さんに携帯を渡し、寛貴さんは携帯を操作して眉根を顰めた。
その時、また着信を知らせるランプが細かく点滅した。
今度はメールじゃない。
寛貴さんが通話ボタンを押した。
「おまえ…何の用だ?」
「もうイヤ!」
梨桜ちゃんが寛貴さんから携帯を奪い取ると壁に投げつけ、そのまま崩れるように床に座り込み泣き出した。
三浦が携帯を拾い、画面を見ながら言った。
「梨桜ちゃん、いつから?」
泣いているだけで返事は返ってこなかった。
宮野が梨桜ちゃんをソファに座らせて抱きかかえるように支えていると、力なくされるままになっていた。
「梨桜、いつからだ?」
寛貴さんが聞いても答えずに、三浦の手の中でランプが点滅しているのを見ているだけだった。
「聞かないで。電話に出ないで…葵、お願い…」
宮野の腕の中で、梨桜ちゃんはカクン、と力が抜けたように凭れかかった。
「梨桜!?」
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