泡沫 (6)
今日は麗香ちゃんと放課後デートの日。
雨が降りそう出しそうな空が気になったけど、楽しく買い物をした。
「梨桜ちゃん、これ可愛いよ?」
そう言われたのは携帯電話のストラップ。
2つのストラップが一つに括られて売られていた。
「これ、ペアなんじゃない?」
ダイヤを型どった小さなリングとシンプルなリングがついているストラップと、黒のリングとピンクゴールドのリングがついているストラップ。
どちらも存在感がある。
「こっちの黒いリングのストラップ、藤島先輩に似合いそうだね」
彼の携帯電話には何もついていないから丁度良いかも。
ストラップをプレゼント用に包装してもらい、自分の分は携帯につけた。
「可愛い」
寛貴、つけてくれるといいな…
「本当に朱雀の倉庫まで送らなくて大丈夫?先輩に迎えに来てもらった方が…」
心配そうに聞いてくる麗香ちゃんに手を振った。
「電話をして迎えに来てもらうから大丈夫だよ。また月曜日にね!」
電話するって言ったけど、歩いていけない距離じゃないな、と思いながら倉庫までの道を歩いた。
買物ってやっぱり楽しい。
可愛くて綺麗な物をたくさん見て、気持ちが浮上した感じがする。週末もお買い物に行こうかな…
ポツ、ポツと顔に水滴が当たり、空を見上げると雨が降りだしていた。
最初から本降りな勢いに、迎えに来てもらおう。と携帯を手にすると着信を知らせていた。
寛貴かも、そう思って通話ボタンを押してしまい、声を聞いた瞬間に相手を見て心の準備をすれば良かったと後悔した。
『やっと出た。ねぇ、梨桜って姫って呼ばれてるんだね』
“姫”そう呼ぶのは限られた人なのにどこでそれを知ったんだろう?
「そんな事より、私聞きたいことがあるの」
電話の向こうでクツクツと楽しそうに笑っている。
凄く嫌な笑い方。嫌悪感が浮かんできたけれど我慢して彼女に話しかけた。
「単刀直入に聞くけど、私の携帯のアドレスと番号が売り買いされているらしいんだけど、由利ちゃんがやったの?」
『そうだよ。だって“姫”なんて呼ばれていい気になってるみたいだったから困らせてやろうと思ったの』
言い訳をするのかと思ったら、こっちが面食らうほど素直に認めた。
でも、最低。
この単語しか頭に浮かばなかった。
「迷惑なんだけど」
『えー?だって姫なんでしょ?助けてもらえばいいじゃない、取り巻きに』
酷い…
人を小馬鹿にした言い方に、人を人とも思っていないようなその例え方に…すべてに腹が立つ。
「ねぇ、いい加減にし『そんな事より、面白い話聞いたの。知りたい?』
私の言葉を遮って嬉々として聞いてくる。
どうせロクでもない話に違いない。聞くつもりは無かったから
「聞きたくない。由利ちゃん…」
『梨桜のお母さんて、あんたが意識を取り戻した日に容態が急変して亡くなったんだって?なんかさぁ、劇的じゃない?あんたの身代わりで死んだみたい』
「な、どうして…」
頭を殴られたような衝撃だった。
どうして…彼女が知っているの?
『何で私が知ってるかって?梨桜が入院してた病院の医大生と合コンしたら教えてくれたの。病院内でちょっとした噂になったんだってね。美談みたいに言われてるけど…梨桜が目を覚まさなければお母さんは助かったかもね?ねぇ、その話を知った時にどう思ったの?ママ、私の代わりになってくれてありがとうって感謝した?』
『キャハハ!』と笑う声を聞いていることが出来なくて一方的に電話を切った。
どこを歩いてきたのかも覚えてないけれど、目の前にベンチがあったから座り、握りしめていた携帯を眺めた。
どうして今の携帯は水に濡れても壊れないんだろう?
こんなにずぶ濡れなんだから、壊れちゃえばいいのに。
濡れても着信を知らせ続ける携帯…
誰の電話にも出たくない。
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