泡沫 (4) side:悠
「ん……カワイ」
顔を弄られてるオレ。
学祭2日目。
梨桜ちゃんは生徒会長命令で生徒会役員の仕事に専念することになった。
生徒会の仕事なんて特にあるわけでもなく、暇なはずなんだよな…寛貴さんの独占欲だと思うのはオレだけじゃない筈。
「ねぇ悠君」
そう言ったままリップブラシを手にしてジーッとオレを見ている。
昨日の梨桜ちゃんも可愛いけどやっぱり今日の素の彼女の方が可愛いと思う。
「あ?」
頬を軽く抑えられてオレの唇を撫でている。
ブラシの動きがくすぐったい
「水族館、悠君は楽しかった?」
水族館?
浮かんだのはあの嫌な女の顔
「あー…サイアク」
「ふーん」
梨桜ちゃんは元彼と言い合いをして泣いたんだよな?寛貴さんに宥められて…
そういえば、その後消えたよな。
クラブに寛貴さんが来たのは夜中近く…
え?…あれ?
もしかして、二人って……
梨桜ちゃんを見ると目の前に顔があって形のいい唇が触れそうな位置にあった。
途端に頭の中にこの前の彼女が浮かび上がった。
寛貴さんの家で偶然に見てしまった、涙を浮かべて強請る梨桜ちゃん。
うっっわ…オレ、何つータイミングで思い出してんだよ!?
「ね、彼女に会った?」
動く唇が…艶っぽい。
「悠君?」
「あ?ああ、会った」
寛貴さんとキスしてるのはこの唇…思わず見惚れてしまう。
「ふーん…どんな話したのかな」
寛貴さんの膝の上でポロポロと涙を流していたのはこの目…
「テキトー。時間つぶしただけ」
思い出しただけで……ヤバい。
離れないと、抱き締めてキスしたくなる。
「そっか…」
オレの考えが読めたのか、梨桜ちゃんはオレから離れた。
ホッとしたような、名残惜しいような…複雑な気持ちで彼女を見るとヒラヒラと一枚の紙をオレの前で振っていた。
「どうしてわざわざ由利ちゃんに会ったのか教えてくれる?」
チラチラと見えるその紙は写真で…それ!!
「何だよそれ!?いつの間に撮ったんだよ!!」
オレのメイド服姿の写真を手にしていた。
奪い返そうとすればスルリとかわされて逃げられる。慣れないロングブーツを履いているから動きにくくて仕方がない。
「凄く可愛いから記念に撮ってもらったの。ねぇ、悠君、私の質問に答えて?」
ニッコリと微笑む彼女は…
今日に限って小悪魔な彼女に課外研修であったこと総てを吐かされた。
もう、これ以上話せるようなことは無い!って言ってるのに写真を振りながらオレを見る。
「だから、それだけだよ!」
「ふーん、そっか…」
梨桜ちゃんは眉根を寄せて小さく「過保護なんだから」と呟いて窓の外を見ていた。
突然そんなこと聞いてきて、何かあったのか?
「その後、彼女と会ったり話したりした?」
「分かんねーよ。なぁ!その写真返してくれよ!」
オレが手を伸ばすと写真を制服のポケットにしまい込んだ。卑怯だぞ!オレが触れないの知ってて!!
「もう一つお願いがあるんだ。拓弥君に水族館で会った後に連絡を取っているか聞いてくれる?」
返せ!と睨むと不敵に笑われた。
「お願いを聞いてくれるまで返さない。それに…今の悠君に睨まれても怖くないよ?」
普段そんな笑みを見せたことが無いから意外で見惚れてしまった。
「卑怯だぞ!」
「そぉ?今ここで悠君の写メを撮って拓弥君に送ったらすぐに来るだろうな~……ねぇ?悠君」
性格が変わってるぞ!?
キッと睨めば、フッと笑われた。
くっそ、女の子に余裕の笑みを浮かべられるなんて…屈辱だ。
「私、葵と一緒で待たされるの好きじゃないの」
コイツ…間違いなく宮野と双子だ!!
「聞けばいいんだろ!?」
そう言って携帯を手にするとニッコリと笑った。
何なんだよ!?今日はキャラが違い過ぎる。
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