泡沫 (3)
どうやって電話を切ったのか覚えてない。
まだ良く理解できていないけれど、怖いと思った。
札幌の友達からの電話を切った後、寛貴は学校祭の事で呼ばれて指導室を出て行ってしまった。
少し一人になって考えたかったから何も言わないで寛貴を見送った。
――梨桜のファンが売買してるみたい。気をつけてね?――
例えば、今こうして朱雀の倉庫にある幹部室でソファに座っている今…
「――ねぇ小橋さん、ユキヤ先輩はどうなったの?」
『もう、知らない。ユキヤなんかどうでもいいの!』
彼と喧嘩をして涙声になってしまった小橋さんを宥めている今も、誰かが私の携帯に電話をかけようとしているんだろうか?
「ね、泣かないで?小橋さん…ごめんね、麗香ちゃんに代わってもらえる?…うん…泣かないで」
テーブルに置いてあるノートにぐるぐると意味のない線を書きながら小橋さんと麗香ちゃんが代わるのを待った。
私、何やってるんだろう?
小橋さんの恋愛相談なんかしている場合じゃないのは分かっているのに頭が上手く働かなくて、意味のない事をしている。
『梨桜ちゃん?』
「麗香ちゃん、どうなってるの?突然電話して来て彼と別れたくないって言ったり、別れるって泣いたり…話の流れが分からないんだけど」
『学校祭でユキヤ先輩が他校の女の子と一緒に歩いているのを小橋さんが見たらしいの。それでね、その場で問い詰めたらしいんだけど…』
なんていうか…ユキヤ先輩って、軽い?
寄りかかっていた葵が動いたからズルズルとソファに横になってしまった。天井を仰ぎ見ながら言いにくそうに話す麗香ちゃんの話を聞いた。
『この前の合コンの話がユキヤ先輩の耳にも入ってたらしいんだよね…』
なるほど。
他の女の子にいい顔をする彼を責めたら、小橋さんも参加していた合コンの事を言われて揉めて別れ話が出て来てしまった…。
「それで?私からユキヤ先輩にそれとなく聞いて欲しいの?」
『ごめんね、嫌な役だよね…』
二人で話し合って欲しい。
『友達だから』そんな理由で当人同士の問題に踏み込む。そういうのが好きになれない。
口を開きかけたときにピーッと音がした。
「バッテリー切れちゃった…」
携帯を見つめて溜め息をついた。
「面倒ごと?」
身体を横にしたまま目線だけを愁君に向けた。
「面倒と言えば面倒」
今の私に人の色恋沙汰を仲裁する余裕は無い。
「ユキヤがどうかしたの?」
「んー…小橋さんと喧嘩したみたい。…疲れた」
電源が切れてしまった携帯を見つめた。
この番号とアドレスが…売買されている?
誰が売ったの?
深く考えなくても、答えは出てくる。
嫌がらせなんだろうな…
私が札幌から戻ってすぐじゃなくてどうして、今?
アレから何かあったの?
思い当たるとすれば、水族館。
でも、私は彼女と接触していない。
だとすれば?
答えを教えてくれるのは……
「何だよ?」
目が合った彼に笑みを向けた。
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