生徒会 (3)
「お帰りなさい、梨桜さん」
「桜庭さんただいま!」
桜庭さんが後部座席のドアを開けてくれて車に乗った。
「ただいま、愁君」
そう言うと愁君は笑って迎えてくれる。
「おかえり」
後部座席には愁君しかいない。葵は用事でもあるのだろう
愁君はモンブランが美味しいお店に連れてきてくれた
「葵はこの手の店は苦手だから、たまにはいいでしょ?」
「ありがとう愁君。美味しい」
葵は甘い物が大嫌い。こんなに美味しいものを味わえないなんて可哀想な弟だ。
「愁君、葵を泣かせるには口の中にチョコレートを入れるといいよ?喧嘩したらやってみて」
「梨桜ちゃん、やったことあるの?」
「うん。喧嘩した時にやった」
胸を張って言うと、愁君は信じられないものを見るような目で私を見て首を横に振った。
「‥それをやった後のアイツの反撃が恐ろしいよ」
「そお? 」
やってみればいいのに、と思いながらクリームを口に入れると美味しくて顔がにやけてしまった。
「梨桜ちゃん、帰りが遅かったね」
「ん~‥報告しなきゃいけない事ができちゃった」
愁君はクスリと笑った。
「聞くのが怖いな」
嘘ばっかり、いつも余裕な愁君のくせに
「何があったの?」
「紫苑の生徒会役員になりました‥ゴメンナサイ」
「このこと葵は?」
「なるかも。っていう段階のことは昨日話した」
「誰に勧誘された?」
目の前の席にいた愁王子は消えて鬼愁が君臨していた
「藤島会長が入れって‥‥無言の抵抗で逃げてみたけど逆効果だよって言われた」
「そういう話はすぐに教えて」
「はい」
愁君、すごく怖いです。絶対葵より愁君の方が怖いよ‥‥
「紫苑と東青は定期的に生徒会が会合を開いて、表向きは温厚な情報交換が行われるのは知ってる?」
「知らない」
お互い族なのにそんなことしてるんだ。真面目っていうか、回りくどいっていうか‥良くわからない関係だ。
「絶対にその席に一緒に出るな。いいね?」
鬼愁に逆らうことはできるわけがなく、こくこくと頷いた。
「努力します」
「ところで、言えなかったことは何かな?」
鬼愁から愁王子に戻ってくれて私は心底ほっとした
「うん‥怒らない?」
紅茶のカップを口に運びながら愁君を窺い見ると、何とも言えないような妖しい笑みを浮かべながら私を見ていた。
「朱雀がらみだと怒るかも」
艶妖な鬼王子だ。話したくなくなってきたな‥
「嘘だよ、話して?」
私は昨日海堂悠から言われたことを話し、そのあと公園での出来事と感じたことを話した。
「表も裏も‥あるのが普通なんじゃない?今の梨桜ちゃんは裏の裏まで作り出してるしね?」
重たくならないように軽く話してくれる
「オレたちは裏の顔をさらけ出してもいい環境を手に入れているだけだよ」
愁君の言葉が、ストン、と心に落ちてくる。
裏表のない人なんかいない、いい人ぶって裏では汚いことをする人達はたくさんいる。
「裏の顔でいる時でもオレ達は信念を曲げたくない。‥だから、梨桜ちゃんを怖がらせた奴らの処分はする。それは梨桜ちゃんのお願いでも譲れないんだ」
彼等は裏の顔であっても真っ直ぐで潔い。
私は頷いて愁君を見た。
「王子様の愁君もこわーい副総長の愁君も。大切な友達の愁君だよね」
私が言うと“そういうこと”と笑って言ってくれた
「でも、そういう二面性を否定する人達が多いことも事実だから、梨桜ちゃんが受け入れようとしてくれているのは嬉しいよ」
王子様スマイルで微笑んでくれたから私も笑みを返して二人で笑っていると愁君の携帯が震えた。
「はい‥‥まだデート中。--心が狭い男は嫌わるぞ」
声に出さないで“あおい?”と聞くと笑って頷く愁君
「あ~‥そうだな。おまえに報告ある」
はい、と愁君は私に携帯を渡した。
「愁君?」
「自分で報告してね?オレの口から言ったらあいつキレるから」
愁君に言われて携帯を耳にあてた。
『梨桜?』
「あのね‥葵」
『なんだ?』
「生徒会に入っちゃった‥‥」
聞こえてきたのは大きな大きなため息。
『素顔はバレてないんだよな』
「うん」
『万が一顔を見られてもオレとの事はバレてないから大丈夫だとは思うけど』
あー‥‥まだ言ってないんだった。
「いやぁ‥あのさ?」
『なんだよ』
「実はね‥この前病院に検査に行ったときなんだけど」
『うん』
愁君の眉が顰められた。これは、鬼になる前兆‥
『‥早く言え』
「廊下を歩いていたらばったり、この前葵が助けた朱雀の人と会ったの」
ああ、愁君が鬼に変貌していく‥
『‥それで?』
「そこにさ、なぜか総長さんと副総長さんがいてね、あわてて逃げたんだけど追いかけられたの。タクシーに飛び乗ったんだけど、総長と一瞬目があった。‥見られた‥かも?」
『梨桜!今すぐこっちに来い!』
ぶちっと電話が切れた。
愁君に携帯を返すと、愁君は通り過ぎたウェイトレスに伝票とお金を渡した
「釣りはいいから」
そう言うと私の手をつかんでテーブルを立たせた。