泡沫 (2)
寛貴が私を連れて来たのは進路指導室。
人が溢れている学校の中でもここは人がいなくて静かだった。
「…」
畳が敷かれているこの部屋で何故か私は寛貴の前で正座をしていた。
だって…まだ顔が怒ってるんだもん。
「男達に絡まれた理由が分かるか?」
寛貴は腕を組み、胡坐をかいて座っていて鋭い目を私に向けている。
「ステージで派手な格好で踊った。…から?」
自信が無いから、問うように答えると、寛貴は「やっぱりな」と諦めたように呟いていた。
私を見ると溜め息をついて「来い」と呼んだ。
これからお説教が始まるんだ…憂鬱な気持ちで少しだけ膝を詰めて近寄ると、腕を掴んで自分の方に強く引いた。
「うわっ」
前のめりになりながら倒れ込むと、寛貴に受け止められて背中を向けて座らせられた。
どうしてこの態勢?
「梨桜」
お腹に腕を回されて耳元で囁かれた。
お説教されるんじゃないの?…私、これから苛められるの?
「自覚しろ」
自覚…
生徒会役員だっていう事?…寛貴の彼女だっていうこと?
「あの…」
何を自覚するの?
首を捻って寛貴を見ようとすると、回されていた腕に力が籠って抱き締められた。
「自分が周りからどう見られているか理解して、自覚しろ」
もう少し、具体的に教えてくれると嬉しいんだけど…
返事をしなかったらチッと舌打ちをされてしまった。
「梨桜」
「はい」
不機嫌な声で呼ばれてマジメに返事をすると、手が制服の中に入ってきた。
この部屋は指導室だよ?ダメなんだよ!!
「ダメだよ」
ダメ、と言って抗っても寛貴に勝てた試しがない。
でも、ここは学校で、変なことしちゃダメなんだよ!!
寛貴の腕の中でもがいていると、お臍の横をギュッと抓られた。
「イタ!」
「小賢しい真似をするな」
身体を捩って逃げようとすると、もう一度抓られた。
「痛いってば!…ヤダ!寛貴、ダメ!」
ヤダって言ってるのに、畳の上に私を押し倒すと下着ごと制服を捲り上げた。
「こんなので隠しやがって」
寛貴の目の前にあるであろうタトゥーシール。それを睨むように見ながら唇で触れた。
「や…だ」
キツく肌を吸われてはつけられる朱い痕。
何度もその行為を繰り返されて、流されそうになるのを堪えた。
「もうステージには立たせない」
無理だよ。
そんなに痕をつけられたら、誤魔化せない。
「他の男の前で見せるな」
ここは学校だからダメ。
…でも、抱きしめてキスして欲しい。
腕を伸ばすと、私を抱き起して自分の膝に座らせてキスをしてくれた。
「…ん」
重ねられる唇が心地好くてキスに応えていると、寛貴の胸ポケットで携帯が震えていた。
名残惜しい気持ちで唇を離すと、偶然にも私の携帯も震えた。
誰?
そう思って寛貴の膝の上から降りて画面を見ると、札幌の高校で仲良くしていたクラスメイトだった。
私から少し離れて話をしている寛貴に背を向けて通話ボタンを押した。
「友紀ちゃん?」
『久しぶり―』
同じ中学から進学した友達で、円香ちゃんとも仲良くしていた女の子。
明るくって楽しい子なんだけど…
『梨桜がいないと合コンが盛り上がらないよー』
冗談の抗議に笑いでかわした。彼女は合コンが大好きなのが偶に困る。
新作ケーキで私を合コンに連れ出していたのは彼女。
『この前札幌に来てたんだって?』
「うん。ごめんね時間がとれなくて連絡できなかった」
『そんなことはいいの!あのさ‥‥この前合コンで聞いたんだけど』
やっぱり合コン。
ホントに好きだなあ‥‥もう、友紀ちゃんの趣味だよね。
「うん?」
『あのね、えっと…』
少し言いにくそうにしている彼女に「どうしたの?」と聞くと思い切ったように話し始めた。
『…梨桜の携帯番号とアドレスが売られてるみたい』
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