泡沫 (1)
「ねぇ、何処に行くの?」
「…」
腕を掴んで前を歩いている寛貴は答えてくれない。
「お願い、先に着替えたい」
背中に話しかけてもやっぱり返事は返ってこない。
「汗をかいたままで気持ち悪いの。ねぇ、寛貴、お願い!」
チッと舌打ちをされて放り込まれた更衣室。
メイクとコンシーラーを落として、汗を洗い流すとまた現れる朱い痕。
指でなぞりながら『もうつけないで』ってお願いしようと思いながら制服に着替えた。
着替えを終えて廊下に出ると、誰もいなかった。
「何処に行ったの?」
更衣室に入る時に『勝手にいなくなるなよ、待ってろ』そう言われたから動かないで待っていたけれど寛貴は戻って来ない。
怒られても一緒に居たいなって少しだけ思ったのに…
メールを送ろうと思って携帯を取り出すと、足音が聞こえた。
寛貴?
顔を上げると私服姿の男の子達がいた。
「やりぃ!」
「オレの予想、当たっただろ?」
何の事だろうと思っていると、ニヤニヤと笑いながら私の前で立ち止まった。
無視しよう。
手元に視線を落として、メールの続きを打った。
「あんた、センターの子だろ?」
チャラチャラしていて感じ悪い。
「そうですけど」
関わらないのが安全だけど、無視を続けて逆上されるのも怖い。
寛貴が早く来てくれればいいのにと思いながら顔を上げると、携帯電話を持っていた手を掴まれた。
「紫苑の女なんて珍しいだけだと思ってたけど…当たりがいたな」
「大当たりじゃね?」
人をくじ引きみたいに…バカにしないでよ!
「離して!」
「“離して”って可愛いな。なぁ、オレ達と遊びに行こうぜ?」
誰が行くか!
睨みつけると腕を掴んだ男が顔を覗き込んで厭らしく笑った。
「細い腕だな。力入れたら折れんじゃねぇ?」
「このまま連れて行こうぜ」
いきなり何なの!?
掴まれた腕を引かれて、抵抗しながら助けを呼んだ。
「ヤダ!寛貴!!葵!!」
「でけー声出してんじゃねぇよ!」
もう一人の男が手を伸ばして来て、ギュッと目を閉じると『ガツッ』と鈍い音がした。
「汚い手で触ってんじゃねーよ」
寛貴、来てくれた…
私の腕を掴んでいた男が床に転がっていて、もう一人の男も腕を掴まれて捻り上げられると苦しそうに呻いていた。
「おまえは目が離せないな」
腕を掴んでいた男を床へ放り出し、私に手を伸ばした。
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