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秋桜  作者: 七地
237/258

晴れのち、  (6)

-自分達の出番まであと30分-



最後の曲用の衣装を着て鏡の前に立ち、見えているお腹をペチペチと叩いた。

この、ブルゾンって言うか上着…ホントにショート丈でお腹が丸見え。


そのせいで…


駄目だ、どうしても隠れない!


「お願い!」


麗香ちゃんにシートを渡すと、「え、コレ?」と言いながら私の顔を見た。


「梨桜ちゃん、大丈夫?」


麗香ちゃんに貼ることをお願いしたのはタトゥーシール。


意地悪なオレ様が毎日重ねてつけた幾つかの朱い痕。

コンシーラーを塗って隠したけれど、お臍の脇につけられた1つだけが隠れなかった!!


「だって誤魔化せないんだもん。お願い、貼って?」


クロスと薔薇のタトゥーシール、可愛いかも。

鏡に映したお腹を見ていると、隣で心配顔の麗香ちゃんがいた。


「先輩に怒られない?」


怒られるかもね。でも、私だけ違う衣装を着る訳にはいかないじゃない?

ここまで来たら最後まで遣りきるしかないでしょ。


「それは終わってから考える。今はステージの事だけ考えよう?」


「でも…」


躊躇っている麗香ちゃんの背中をポンポンと叩いて、衣装の上に制服風の衣装を重ねた。




・・―――

   ―――・・



凄く、緊張した。


今もドキドキしてる。


受け入れられなかったらどうしようって思った。



最後の曲が終わった今、会場にいる生徒達が歓声を上げていて、私と麗香ちゃんの名前を呼んでいるということは、成功したと思っていいんだろうか?



麗香ちゃんとハグをしていると実行委員に早くステージの袖に下がるように言われて移動すると、皆で「おつかれー!」と盛り上がったステージを喜んだ。



「盛り上がってるとこ悪いけどな…」


皆をねぎらっていた先生が振り返り私の顔を見た。

どうしたの?顔が強張って…笑いが引き攣ってる。


「東堂、どうやってアレの収集をつけるつもりだ?」


「?」


先生が指差す方を見るとステージから移動する通路に立ちはだかる…大男達がいた。


「やっぱり怒ってるよ?どうするの?」


麗香ちゃんが私の腕を掴んで揺さぶっていた。

うん、怒ってる。すっごく不機嫌な顔してる。


「…」


葵のアノ顔は『梨桜!!おまえな!』って言いたい顔だね。寛貴は私が愁君に言われて着たセーラー服を見た時と同じ顔してる。


「東堂、オレが前に言った事覚えてるか?」


先生に言われて頷いた。

覚えてるよ、あの理不尽なお願いでしょう?


先生、私思うんですけど…


「先生」


なんだ?と眉をあげた先生に質問をしてみた。


「私、怒られるような悪い事しましたか」


「…おまえな」


「私、しましたか?ワルイコト」


語尾を強調すると、先生は顎に手を当てて考えていたけれど、ポツリと言った。


「悪い事。はしてない…な」


「良かった」


「良かった。じゃねーだろ、どうすんだよ?」


悠君が言うと先生も「そうだぞ!」と言い出した。

そうだぞ、って…言われてもアレはもう、どうしようもない。


そんな事よりも、今の私はすっごくいい気分。


「梨桜さん!」


今なら何でもできそうな気がする。

コジ君に手を振られて、振り返すと葵に向かって走った。


「走るな!」


葵が怒っていたけど、そんなのは無視!


「梨桜、止めろ!」


走っている私にコジ君が驚いて、慌てて私を避けようとしているけれど、その前に葵に飛びついた。


流石、葵。

私を落とすことなく抱きとめてくれた。


「葵、ちゃんと見てくれた?」


葵は私を床に下ろそうとしたけれど、首にしがみついて離れなかった。

怒られる前に伝えたいことがある。


「ねぇ、見てくれた?」


「ああ…」


綺麗な顔が台無しの仏頂面。


「愁君も見てくれた?」


葵の肩越しに聞くと、笑みを浮かべて頷いてくれた。


「コジ君も見てくれた?」


コジ君にも聞くと、素直に「ハイ!」と頷いてくれた。彼の協力があったから東青の生徒も盛り上がってくれたんだと思う。


「梨桜さんすげー可愛かったですよ。そこらへんのアイドルより可愛い!」


「コジ君、ありがと」


葵が私の両脇に手をかけて自分から離そうとしたけれど、葵の首にぎゅうっと力を込めて抱きついた。


「梨桜、苦しい」


葵の首から腕を離し、床に降ろしてもらうと羽織っていたベンチコートのポケットから葵のネクタイを出して首にかけた。


「ネクタイありがと。私が無理を言ってコジ君に協力してもらったの」


だから、怒らないでね。って言おうとしたのに“ゴン!”と頭突きされた。


「っ!!」


イッタ―イ!!涙が出た!


「そんな事はどうでもいいんだよ。自分が何したか分かってんのか」


額を突き合わせたまま、葵の目を見ると完全に据わっていて「痛い」と訴えたら睨まれた。


「家に帰ったら…覚えてろ?」


「…ホラー映画で一晩放置はイヤ」


ニヤリと笑われてゾクッと背中が震えた。

それは絶対に嫌。お願い、それだけは止めて!葵にお願いしようとしたら、身体が後ろに引き倒されそうになった。


「いつまでじゃれてんだよ」


ズルズルと引き摺られて見上げれば、こっちも目が据わっている。


「さっさと着替えろ」


「梨桜ちゃん、後でゆっくりね」


愁君に手を振られて、引き摺られるようにして講堂を出た。




.


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