晴れのち、 (3)
「先生、美味しい」
「そーか。良かったな」
学校を回り終えて生徒会室で先生と二人で休憩していたら扉が開いた。
「……」
先生からもらったドーナツに齧り付いていたら、目の前で葵が固まっている。
「葵、入り口で止まるなよ」
まだ固まっているけど、どんどん目が険しくなっていく…
「何してるんだおまえ…」
残念。
やっぱり葵には分かっちゃった。
ひらひらと手を振ると、とっても冷たい目で私を睨んでいて、隣に座っている先生は楽しそうに笑っていた。
「突っ立ってないで座れよ」
安達先生に言われた葵は私に視線を向けたまま、ドサリと椅子に腰かけた。
そんなに睨まないでよ…メイドじゃないんだからいいでしょ?
「…」
身を乗り出したかと思うと、私の顎に指をかけて自分の方に強引に向けた。
痛いでしょ!
葵を睨むと、眉を吊り上げて私を睨み返している。
「誰がこんな恰好をさせた?」
「え?…梨桜ちゃん?」
「梨桜さん?マジ?」
愁君にはバレなかった!
心の中でヤッタ!と手を上げて喜んだ。
「ふざけた真似してないで、着替えて来い」
「ヤダ!私のお仕事なの」
「おい、ウチのクラスの大事な戦力だ。まだまだ働いてもらうんだから邪魔するな」
からかうような先生の発言に葵はプイッと横を向いてしまった。
「オレ、マジで分からなかった。葵、良く分かったな」
紅茶を一口飲むと愁君がマジマジと私を眺めていて、コジ君に手を振ると、口を開けて私を見ていた。
「何処から見ても梨桜だろ。分からない方がおかしい」
「双子ってすげーな。オレも分らなかったぞ?…お、そろそろ時間だな」
時計を見た先生が私を見て「支度しろよ」と言い、私は残っていたドーナツを口に入れた。
麗香ちゃんと交代する時間。
「慌てて食うな」
ドーナツから飛び出したクリームが唇の端についてしまい、指で拭おうとしたら先に葵に拭われてしまった。
「弟に世話されて…ガキだな、おまえは。」
からかう先生にムッと視線を送ると葵はまだ冷たい視線を私に向けていた。
「すみませーん!失礼します!!」
女の子の声が聞こえて扉が開いた。
皆の注意がそちらに向いて葵の極悪なオーラが少しだけ治まったことにホッとした。
「東堂さん!」
入ってきたのは小橋さんと女の子達だった。
生徒会室に来るなんて、どうしたの?
「どうした?」
「キャー!カッコイイ!」
「東堂さんがイケメンだって聞いたのー!」
先生を押し退けて私の前に立った彼女達。
女の子にキャーキャー言われるの初めて…
「一緒に写真撮って!」
グイッと顔を近付けて言われて、その迫力が怖かった。
「一緒に見て回ろう?」
「休憩時間にデートしよう!?」
キラキラ……違う、ギラギラしている女の子達。
いつも仲良く話している彼女達と同一人物?と問いかけたくなるような変わり様にただ、引いて怯えるのみ…
女の子って…
「学校が終わったらご飯食べにいこ!」
女の子って……怖い!
じりじりと追いつめられて、隣にいる葵にピッタリとくっついてしまった。
これ以上逃げられない!
葵、どうしよう?私…食べられちゃう!!
『お願い、食べないで!』ぎゅっと目を閉じると、身体が浮いた。
「うるせぇ!!梨桜に触るな!」
頭の上から聞こえた怒鳴り声ににじり寄っていた女の子達がピタリと動きを止めた。
「てめぇら、散れ!!」
葵の膝の上で、極悪オーラに怯える彼女達を見ながら、二度と男の子にはならない!
心の中で固く誓った。
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