晴れのち、 (2)
悠君、頑張れ~!
心の中で手を振っていると
「おい、おまえ」
肩を掴まれて振り向かされた。
「おまえ、悠のクラスだよな?」
コクンと頷くと、私に気付かない拓弥君は凄みを効かせた視線で私をジロリと見た。
女の子にはいつも優しくて軽いけど、男の子には怖い先輩なんだ…
「さっきの美少女どこにいった?」
鋭い視線をかわして彼が走って逃げた方向とは違う方を向いた。
「……逃げました」
「くっそ…寛貴、オレ行く」
走って行っちゃった。
中身は男の子で悠君なのに…
もう一度、悠君頑張れ!とエールを送ってプラカードを抱え直した。
「おい、一年」
寛貴に声をかけられてチラリと振り返ると、凄く機嫌の悪そうな顔をしていた。
「梨桜はどこにいる?」
もしかして、私ってまた探されてる?
首を傾げると寛貴は私の顔を覗きこんだ。
「見ない顔だな」
…毎日見てるよ?キスだっていっぱいしてる。
そんなに怖い顔で見ないで?
「…」
「黙ってないでなんか言え」
声を聞かれたらバレちゃう…
怖い顔をして凄む寛貴に、“エヘ”と笑って誤魔化そうとしたら更に機嫌が悪くなってしまった。
「おまえ…」
手が伸ばされて、長い指が私の頬に触れて唇に触れた。
唇を優しく撫でられてうっとりとしそうになっていたら…
「いったーい!」
“ぎゅーっ”てホッペタを引っ張られた。
いきなり何するの!?
手で頬を押さえて寛貴を睨んだら、倍の鋭さで睨み返し私の腕を掴むと引きずるように歩き出した。
「離して!」
寛貴は無言のまま中庭まで来ると、私をベンチに座らせて腕を組んで私を見下ろした。
「これはなんの真似だ?」
寛貴の手を握って引くと私の隣に座って私の髪を弄りながら聞いた。
「男の子になった」
「は?」
片眉を上げて聞き返されて「だからね」と説明した。
「お客さんからメイドさん指名を取り付けたり、女の子の相手をするギャルソンになったの。カッコいい?麗香ちゃんには好評だったんだけど」
「バカかおまえは…」
バカじゃないよ。学祭だもん
「ギャルソンじゃなければメイドで接客係なんだけど、それでも良かった?怒らない?」
そう言えばきつく寄せられる眉根に、クラスの皆が言ってた事は本当なんだと実感した。
「ったく…生徒会役員は参加しなくてもいいって言っただろ」
それはつまらないよ。
参加できる学校行事には参加したい。
「参加したい…生徒会の仕事もやるから」
仕方ない奴だな。って言いながら寛貴は私の頬を撫でた。
「ねぇ、どうして私だって分かったの?」
温かい手が心地好くて頬擦りしていると両手で私の頬を挟んだ。
「分かるに決まってるだろ」
親指で唇を撫でると、顔を少し傾け大好きな唇が触れた。
「んっ…」
下唇を甘く噛まれて少し開くと熱い舌が絡められた。
蕩けちゃいそう…
うっとりとキスに酔っていると
「キャー!」
黄色い声が響いた。
驚いて寛貴にしがみつくと、また「キャー!!凄いっ」と叫び声が上がっている。
女の子の声?
辺りを見回すと数人の女の子が私達を見てキャーキャーと騒いでいた。
寛貴とのキスを見られた?
「すごいよ!キスしてた!!」
「初めてホンモノ見た!」
ホンモノって…?
もしかして、私達勘違いされてる?
「やっぱり男子校って、そういうのあるんだー!」
キャーッと嬉しそうな女の子達。
ここ、男子校じゃなくなったんですけど…
「うるせぇ」
思いっきり眉を顰める寛貴を見ていたら自然に笑みが浮かんでしまった。
女の子にキャーキャー言われてこの顰めっ面。拓弥君なら愛想を振り撒きそうなのに…
そんな反応に安心してしまう私は…ずるいけど、許してね?
「寛貴」
「あ?」
クスクス笑ったまま名前を呼んだら思いっきり不機嫌な顔のまま返事をされた。
怖いってば…
「午後からは生徒会の仕事するからね」
「…当たり前だろ」
「うん、そうなんだけど」
ちゃんとお仕事するから。
…あのね?
「わかんねぇ奴だな」
だから、ステージを見ても怒らないでね?
寛貴の腕にスリスリと頬を寄せたら、また「キャー!!」と騒がれてしまった。
「ふふっ楽しい」
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