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秋桜  作者: 七地
227/258

昨日よりも… (7)

「はぁ…」


溜め息をついて椅子の背もたれに寄りかかった。

安達先生に『教え子を見捨てるなんて、先生ひどい。ひどすぎる!!』と訴えたら笑いながら


『昨日、災難だったオレの生徒は特別に昼休みまで休憩していていいぞ』


そう言って資料室の鍵を貸してくれた。

先生の言葉に甘えて、編み物をしながらのんびりと休憩中。





・・――――

   ――――・・



「!!」


突然鳴り響いたメロディに驚いて目が覚めた。


編みかけのセーターの上に突っ伏していた。

…私、寝てたんだ。


鳴り止まないメロディに「ハイハイ」と返事をしながら携帯電話を探した。

誰からの電話か、何となく想像はつく。


バックの中から携帯電話を取り出して通話ボタンを押すと


『今どこにいる』


やっぱり、寛貴だ。何故か機嫌の悪い声。


「…ナイショ」


セーターを編んでいる事をまだ知られたくなくてそう言うと、電話の向こうで溜め息をついた。


『どこだ』


「言ったらナイショじゃないでしょ?」


窓から外を見ると、校内清掃をしていた筈の生徒がいなかった。

…あれ?もしかして、私、寝過ぎた?


『いいから場所を言え』


時計を見ると、お昼休みも半分を過ぎている時間だった。

寛貴は生徒会室に顔を出さない私を探しているのかもしれない。


「もしかして私のこと探させてる?」


『当たり前だ』


こういうところは普通じゃないよね…葵と寛貴は自分の目の届くところに私がいないのをとても嫌がる。


「私一人しかいないから大丈夫だよ。教室にも鍵をかけてるし…ついでだからお弁当もここで食べる」


『梨桜?』


機嫌の悪い声は変わらない。むしろ、さっきよりも機嫌が悪くなったような気がする。

本当に心配性なんだから。


「資料室に…「やっぱりそこか…動くなよ」


ブチッと電話が切れた。

短気だなぁ…



大きく伸びをして、荷物を片付け始めるとガチャリと鍵を開ける音がした。

そうだ、寛貴ってマスターキーを持ってるんだった!


ちょっと、待って!まだセーター片付けてない!!

慌てて毛糸とセーターをバックに入れようとしたら毛糸玉が床に転がった。


「もう!」


急いでいる時に限って!

焦りながら、床に屈んで毛糸を拾うと…足が見えた。


「梨桜?」


見上げれば私を見下ろしている寛貴。

来るのが早過ぎるよ…


寛貴は屈んで、ペタンと床に座り込んだ私の視線に合わせると、頭をワシャワシャと撫でた。


「いつも言ってるだろ、何も言わないでいなくなるな」


「寛貴は心配症だね」


子供じゃないんだから…心配し過ぎ。

寛貴を見ると目の前にある唇が綺麗な弧を描いた。


「仕方ないだろ…惚れてんだから」


どうして寛貴は私を甘やかすのが上手いんだろう…

オレ様のくせにこんなに甘いなんて、反則だよ。


床に座った寛貴は自分の膝の上に私を抱き上げると、触れるだけのキスをして抱き寄せた。


「梨桜」


抱き寄せられたまま耳元で囁かれて「ん」と返事をすると、自分から私を引き剥がし、顔を覗き込まれた。


「さっき、何を隠した?」


「……」


見てたんだ?

何も言わないから気付かなかったんだと思ったのに…


「梨桜?」


見られたら、仕方がない。


「寛貴にあげようと思ってセーターを編んでたの」


「オレに?」


正直に言ったら、驚いた顔をして聞き返された。

そんなに吃驚した?…もしかして、そういうの、嫌い?


「うん。ホントは内緒にしたかったんだけど…手編みって…」


『手編みって嫌い?迷惑だったかな』

そう聞きたかったけれど、キツく抱き締められて息が止まった。


毎回だけど…

それ、ヤダ!呼吸ができないんだよっ!?


「ひ、ろ……イヤなら…」


苦しい!!

嫌なら止めるから、それ、止めて!!


「編めよ…」


フッと力が緩められて、耳元で囁かれると唇が触れた。


「んっ」



酸欠で意識が遠くなりかけた頃、やっと解放されてぐったりと寛貴に凭れた。

苦しかった!私、いつか酸欠で死ぬんじゃないだろうか…


「梨桜」


返事をする気にならなくて、視線だけで答えると真顔で私を見ていた。

どうしたの?


「最近、変わった事は無いよな?」


唐突に言われて、意味が分からなかった。

変わった事?


「無いならいい。オレの目の届くところにいろ。…いいな?」


寛貴?

何かあったの?



.


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