昨日よりも… (4) side:コジ
「梨桜!おまえは何やってんだ!!」
オレ達がなだれ込んだ生徒会準備室のソファの上で、梨桜さんがキョトン。としてこちらを見ていた。
服が乱れた様子もなく、むしろ制服の上にパーカーを着こんでいる。
今日も可愛い梨桜さんは、人差し指を立てたまま振り返ってオレ達を見ていた。
「葵?びっくりしたぁ…って、ああ!!落としちゃった!!」
床を見ながら「どうしよう!」と慌てていて、梨桜さんの隣で誰かが立ち上がった。
「うわぁ!」
え?…えぇっ!?
「待って!逃げないで!!」
美少女が走って逃げていった。
―――美少女?
「葵のせいで逃げられちゃったじゃない!」
何故、美少女?さっきまで聞こえていたのは男の声と梨桜さんの声…だよな?
「こんなとこでナニをやってんだよ!?バカ!」
勢いが治まらない葵さんに梨桜さんがキッと睨み返していた。
「ナニって…あーん、もう!!やっと捕まえたのに!カラコンも落としちゃったじゃない!」
藤島が床に落ちていたカラーコンタクトレンズを拾い上げ梨桜さんの手に乗せた。
「ここで何をしていたんだ?」
「学校祭の準備だよ。テストメイクしてたのにっ!」
ソファーに座り、テーブルに並べられていたメイク道具を片付け始めた。
メイクとカラコン…やっと話の流れがつかめて一人で納得した。だから、『可愛い』『動かないで』なんだな…焦ったぜ
「今逃げて行ったのって…」
大橋が言うと梨桜さんはフフッと笑った。
「可愛かったでしょ?拓弥君の好みだと思うんだよね」
でも、さっきは男の声が…
「まさか、あれ男!?」
オレが言うと嬉しそうにニッコリと笑う梨桜さん。
あの美少女は男……
「最後の仕上げだったのに、皆が乱入してくるから恥ずかしがって逃げちゃったじゃない」
「さっきの美少女、誰だ?」
大橋が首をひねって考えている。
「さぁ~、誰だろう?当日までお楽しみにね」
ニッコリ笑った梨桜さんが立ち上がると、葵さんが声をあげた。
「おまえ、なんだその格好は!?」
ハッとした顔をした梨桜さんは、慌てて羽織っていたパーカーの前を合わせて隠した。
チラリと見えたその格好は…
「見ちゃダメ!」
藤島と葵さんに睨まれた梨桜さんは笑って誤魔化しながら逃げようとしたけれど、藤島が伸ばした腕にアッサリと捕まっていた。
「ヤダ!!」
さっきとまるっきり立場が逆ですね…。藤島に羽交い絞めにされて葵さんにパーカーを脱がされて…
「おまえ…」
呆然とする藤島に目をキラキラさせている大橋。
「梨桜ちゃん、それヤバイよ」
「梨桜!何を考えてんだ!!」
怒っている葵さんに何故か無言で笑みを浮かべている愁さん。…愁さん?
「……」
愁さんが不思議だったけれど、梨桜さんをもう一度見て頷いた。
その恰好はオレもヤバイと思う…
だって…どうみてもソレって『スケバン』ですよね?
改造されたセーラー服。
胸元を隠している当て布は外されていて襟が大きく開かれ、着丈が短くチラチラと白い肌が見えていて、袖はお約束で捲られていた。
スカートはミニで腰には細いチェーンが回されていて細い腰が強調されている。
「梨桜ちゃん、似合うね」
ニッコリと笑う愁さんに涙目になっている梨桜さんが何かを訴えるように見ていた。
今時、こんなヤンキーはいないと思うけど、こんなに可愛いヤンキーなら大歓迎だ!!!
っつーかチームにこんな姫がいたら大変だ!
「そんな申請はなかったよな」
大橋が書類を取り出して調べ始めると、ジタバタと暴れる梨桜さんを藤島が抑え込んでいた。
「やだっ!!離して!!」
「おまえのクラスは何をしでかすつもりなんだ?」
「なにもしないよ、これは!」
藤島に問い詰められて焦っている梨桜さん。
「これは?」
愁さんに微笑まれてグッと口を噤んだ梨桜さん。…愁さん、さっきからアヤシイんですけど?
「梨桜?」
葵さんに凄まれて口をつぐんだままフルフルと首を横に振る梨桜さん。
このスケバン、メチャクチャ可愛い…
「じゃあ、おまえのその格好はなんだ」
「…着てみてって言われたから着ただけ」
「ステージ用じゃないだろうな」
「く、詳しい事は教えてもらってないから知らない」
何となく苦し紛れな気がするのは気のせいじゃないような…
「丈が短かすぎる」
「見えても大丈夫なショートパンツ履いてる」
「ヘソが見えてんだろーが!」
「葵、細かすぎるよ!」
藤島の腕の中にいながら葵さんと言い合う梨桜さん…梨桜さんの男になるには相当寛大じゃないといけないんだな。
「梨桜……」
耳元で話す藤島の言葉に梨桜さんの頬が染まった。
「っ~!!ヤダッ!」
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