表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋桜  作者: 七地
220/258

おかえり

葵が帰って来た土曜日、学校からチームハウスに来ると葵と愁君は軽い時差ボケで仮眠中。


二人が起きるまでタカちゃんが沢山送ってくれた「胡桃」でデザートを作ろうと思い、地面にレジャーシートを広げてせっせとくるみを割っていた。


いいお天気で、日差しが温かくて気持ち良い!


葵も帰って来たし、ココと朱雀に通う日々がまた始まるんだね。

最初は違和感を感じていたけれど、今はココに居るのが楽しいと思うようになった。それは朱雀の倉庫も同じだけれど、葵の傍はやっぱり少し違う。


“一緒”の安心感。




「……話なら早くしてくれ」


突然聞こえた声に胡桃を割る手を止めた。

葵、寝てたんじゃないの?


「私、宮野さんにずっと憧れていました!」


おぉ!告白だ。相変わらず女の子に人気だね。

でも、次にくる言葉は決まっていつも


「オレの何を知ってるんだよ」


やっぱりね…。


「知りません!でも、知ってる事もあります!双子のお姉さんと仲がいいことや、冷たそうに見せているけど、本当は優しいところとか…そういう宮野さんを見て憧れました!」


「…」


葵が黙っている。

葵の何を知っているのか。それをこんな風に切り返してくる女の子っていないんだと思う。

大抵、容姿や成績がいい事を理由に『憧れてる』とか『好き』って言われてきたことが多いから


葵がどんな言葉を返すんだろうと思っていたら


「ストーカーかよ」


違うからね…葵。

好きな人の事は目で追っちゃうの。いつも探しちゃうんだよ!

でも、知らない人から『見てました』そう言われて引いちゃう気持ちも分かる。


「違います!ただ、宮野さんの事が好きなんです」


勇気を出して告白している女の子が少しだけ気の毒だ。


「付き合って下さい。なんて言いません!ただ、憧れていて好きだって伝えたかっただけなんです!」


走り去る足音。

これは、言い逃げという奴だろうか…『好きでいること』それは自由。でも、こんな風に自分の気持ちをぶつけられる葵の事を考えたことはあるのだろうか?


足を伸ばしている私の膝に影が差しかかった。


「盗み聞きか?」


「私が先に居たの。別に今更でしょ?」


「まぁな。…眠い、膝」


膝の上に乗せていたボウルを避けて太ももをポンポンと叩いた。


「どうぞ」


レジャーシートの上にゴロンと横になり私の膝上に頭を乗せた。


「おかえり」


上から見下ろして言うと、少し眩しそうに目を細めながら笑った。


「ただいま」


片膝を立てて、長い脚をそこに乗せている。

何をしてもサマになる男だ。


「イギリスは寒かった?」


「ここよりは」


「パパにセーター渡してくれた?」


「あぁ、すげー喜んでた」


サラサラの髪の毛を指で掬うと目を閉じてされるままになっていた。


「ねぇ、冬休みに二人でパパの所に押しかけちゃおうか」


「…驚くぞ」


クリスマスプレゼントを持って、内緒で押しかけたら驚くだろうな…

家族でご飯を食べたい。それだけなんだけど…


「梨桜」


目を閉じていた葵が目を開いて私を見た。


「ん?」


「オレ、決めた」


何を決めたの?

髪の毛を掬う手を止めて葵を見ると、フッと笑って私の髪を撫でた。


「東堂に戻る」


「…」


突然言われて言葉が出なかった。


「戻るって…」


葵は体を起こして私の顔を覗き込んだ。


「梨桜はオレが東堂葵に戻ったら嫌か?」


首を横に振った。


「嫌な訳無いでしょ!…でも、本当にいいの?」


「梨桜が名字で呼ばれる度に反応してる自分がいたんだよ。オレも東堂なんだよなって思ってた。慧兄に言われて、考えたことを親父と話しあったんだ『東堂葵』に戻りたいって」


葵の首に腕を回して抱きついた。


私が呼ばれる度…そんな風に思ってたんだ。

複雑な気持ちだったね…気付いてあげられなくてごめん。


「パパは?」


「そうか。しか言わなかったけど笑ってた」


きっとパパも葵が言いだすのを待ってたんだね…パパも嬉しかったんだと思う。


「…ぎゅうってしてくれるのか?」


葵に抱きついたままでいたら、頭の上でクスクスと笑いながら私の背中を撫でていた。


「うん。だから葵もぎゅってして?」


葵の腕に力がこもり、私もそれに負けじと力を籠めた。


「梨桜、体重かけるな!」


立ち膝で抱きついていた私は寄りかかり過ぎてしまい、バランスを崩した葵は仰向けに倒れてしまった。


それでも離れない私に、苦笑しながら背中をポンポンと叩いていた。


「葵」


「ん」


「今日は私が葵の髪の毛乾かしてあげる」


「頭にドライヤーぶつけるなよ」


「がんばる」


「…道路から丸見えなんだけど。分かってる?」


首を捻って見れば、腕を組んで仁王立ちの愁君がいた。

私を抱えたまま体を起こした葵は、自分の足の間に私を座らせた。私達を見て難しい顔をしている愁君に、エヘヘ、と笑ってみたけれど


「笑って誤魔化しても駄目」


ピシャリと返されてしまった。…厳しいよ!


「別にいいじゃねーか」


葵が言うと冷めた視線を投げられて、ハァ…と大きなため息をつかれてしまった。


「おまえらがじゃれてると下の奴等の目の毒になるんだよ。…それくらい解れよ」



.


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ