生徒会 (1)
「今日は顔色いいね」
朝から海堂悠と『生徒会に入れ』『無理』のやりとりを何回も繰り返し、昼休みに連れてこられた生徒会室で私の顔を見ながらニコニコ笑う大橋拓弥を前に私は疲れ果てていた。
「梨桜ちゃんて門限あるの?」
「はい」
葵に“門限は6時って言っておけ”と朝に言われた。
「一応、聞いていい?」
「6時です」
「え?」
目が点になる海堂悠。
気持ちは分かるよ、私も本当に門限が6時だったら暴れちゃうかもしれないもん。
「梨桜ちゃん、君って高校生だよね」
「うん」
「本当に6時?」
「はい」
大橋拓弥の問いに頷く
「そう、箱入り娘なんだ」
そうだね箱入り。
箱の中には真綿が敷き詰められていて私はそこに入れられている。
たまにふざけた葵に締め付けられて苦しめられる‥‥
葵といる空間、愁君とコジ君との関係は心地よい
「門限までに帰せばいいんだろ」
あっさりと言う横暴総長に続いてやたらと軽い副総長がにっこり笑った。
「梨桜ちゃん、今日の放課後は資料作りだから。頑張ろうね」
「え?私、了承してませんよ!?」
「学校側にはもう届を出した」
藤島寛貴の言葉に気が遠くなった。
勝手に届けを出さないでよっ!!!
放課後
“パチン”“パチン”“パチン”‥‥さっきからずっと書類をまとめている私。
単調な作業に眠たくなってくる。
3人は何やら族用語を駆使して難しい話をしている。
今日はお昼寝してないから本当に眠い。今日の迎えの車では寝かせてもらおう。
いつもお迎えに来てくれる桜庭さんの運転は心地良くてうとうとと眠ってしまう。
「あ‥‥」
桜庭さんの事を思い出したら、昨日の事を思い出してホチキス留めしていた手を止めた。
忘れてた、愁君にお願いしなきゃ!
視線に気がつくと3人が私を見ている
「どうしたの?」
悠が聞いてきた
「電話する用事があったの」
胸ポケットから携帯を出して立ち上がった。
「ここで電話すればいいよ」
悠が言ったけれど私は首を横に振った
「ちょっと恥ずかしい話だから」
‥‥と思っていたら手の中の携帯が震えた
サブディスプレイの表示は愁君だった。通話ボタンを押して耳に当てると
『梨桜ちゃん、今大丈夫?』
優しい愁君の声
「うん、私も今電話しようと思ってたの」
『梨桜ちゃんの話って?先にどうぞ?』
「私の話は‥‥お願いの電話」
私は背中に視線を感じながら部屋の扉を開いた。
『ああ、コジに聞いた。オレの話もそれ』
「‥‥ふふっ、同じ事考えて行動してるね」
後ろ手に扉を閉めると階段を下りて空き教室に入った。
「昨日のことは私も悪いからあんまり厳しい処分はしないであげて?」
『庇いたい気持ちはわかるよ。でもオレ達の決まりは一般人には手を出さない。それを破ったことの処分は別だからね』
厳しい副総長だ
「葵はなんて言ってるの?」
『オレに任せるってさ‥‥何にしても梨桜ちゃんを怖がらせたんだ』
「それは違うの!別な事で不安になっていただけだから」
愁君が小さく息を吐いた
『ちゃんと葵にその話、した?』
「うん」
『不安は取り除けた?』
「多分大丈夫」
少し口ごもる私に愁君は受話器の向こうで小さく笑った。
『葵には言えない事があった?‥‥ってそりゃ、あるよな‥‥』
愁君には何でもお見通し。すごいね、愁君
「愁君はすごいね」
『‥‥デートしよっか、梨桜ちゃん』
私に気を使わせないように軽い口調で言う愁君に感謝しながら、私も軽い口調で返した。
「美味しいケーキがあるお店がいいな」
『わかった。昨日降りた駅で待ってるから』
「うん」
生徒会室に戻ると大橋拓弥が食いついてきた
「彼氏?」
ニヤニヤ笑っている。“からかいたくて仕方がない”っていう顔をしている
「違います。友達です」
「ふぅん、お願いは成功?」
「半分失敗しました」
海堂悠も口を挟む
「友達って、東京?札幌?」
嘘をついた
「札幌の友達」