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秋桜  作者: 七地
216/258

触れる唇 (9)

「落ち着いたか?」


「ごめ…ん」


「謝らなくてもいい。あの男が言った事は気にするな」


気にする!

寛貴と葵を悪く言われたら嫌だよ。


「泣き止め」


涙を拭われて顔を上げて寛貴を見たら…彼の後ろにあるモノが目に入った。

ミニバーのカウンター…?ここ、何処?


周りをキョロキョロと見回すと…

私と寛貴が座っているのはソファで、その後ろにはベッドが2つ。

レースのカーテン越しに見えるのは、間違いなく夜景で有名なあの観覧車。

どうみても自分はホテルの部屋に居るとしか思えない。

ホテルはホテルでも、一泊数万円はするようなホテルの部屋だと思う。


「……」


尚人君に言われた言葉が悔しくて泣き出した私を人の少ない場所に連れて行ってくれたのは覚えてる。

感情が昂ってしまい、涙が止まらなくなった私を見かねた寛貴がどこかへ電話していたのも分かる。


「ここが何処か分からないのか?」


寛貴の言葉に頷いた。


タクシーに乗せられたけど、ずっと寛貴にしがみついていたから外は見ていないし、降りてからも俯いていたから何処を歩いたのか、どんな建物に入ったのかも見ていなかった。


まさか、こんなところに来ていたなんて…


「泊まるの?」


私、外を歩けないような酷い顔になった?


「泊まったら殺される。デイリーユースだから安心しろ。顔、洗って来い」


「うん」


泣きながら手で擦った頬と目の下に涙が沁みてヒリヒリする。

バスルームの扉を開けると落ち着いた雰囲気のバスルームだった。大きな鏡に自分の顔を映して恥ずかしくなった。


酷い顔…

泣きはらして真っ赤な目と腫れぼったい瞼。

この顔のままで学校が手配したバスに乗って帰るのは恥ずかしい。ココに連れて来てくれた寛貴に感謝だ。




「落ち着いたな…」


「うん。ありがと」


テーブルの上に美味しそうなグラタンが乗っていた。グラタンだけじゃなく、美味しそうな匂いをさせているパンとサラダと…美味しそうなお肉のグリルもある。


「寛貴?」


「何が食べたいか分からなかったから適当に頼んだ。…おい、やっと止まったんだから、泣くなよ?」


また涙ぐんだ私を見て寛貴は焦ったように言うと、私の手を引いて自分の隣に座らせた。


「もう泣かなくていい。理解して欲しいと思う人に伝わっていればいいんだ。分かるか?」


寛貴に腕を伸ばすと、抱き寄せて背中を撫でてくれた。

大好き…


「冷めるから食べるぞ」




「ごちそう様でした」


寛貴に手伝ってもらいながらエビグラタンを食べて、美味しい紅茶を飲むとやっと落ち着いた。


「珍しく良く食べたな」


今日は私服でニットワンピースを着てきたから、満腹で膨らんだお腹が目立つかもしれない…これは、マズイ…


「怒って泣いたから体力を使ってお腹が空いたのかもしれない」


膨らんだお腹をさすっていると、私を見ながら笑っていた。


「…子供と同じだな。食べたら昼寝だろ?」


どうせ子供だもん。

ムッと膨れながら寛貴を見ると、上着を脱いでクローゼットのハンガーにかけると私を手招きしていた。

傍に行くと、私の足元を見て一言


「ブーツを脱げ」


「なんで?」


「お子様は昼寝するんだろ?」


ベッドが2つあるからいいか…

そう思ってブーツを脱いで素足になり、ワンピースの上に羽織っていたカーディガンをハンガーにかけた。


「おやすみ!」


壁際のベッドに行こうとすると、お腹に腕が回された。


「私、壁際がいいの」


「オレは窓際がいいんだ」


「だったら窓際で寝ればいいでしょ?私は壁際が落ち着くの」


頭の上で大きく舌打ちをされて、ズルズルと引きずられて窓際のベッドに来ると私を抱えてベッドに横になった。


寛貴が熱を出してお見舞いに行った時を思い出した。


「今日も抱き枕?」


「当たり前だ。早く寝ろ」


寝ろ。って言われてすぐに眠れるわけないでしょ。

そう言い返してやろうと思ったけど、寛貴に包まれているのが心地好かったから、胸に頬を寄せて目を閉じた。


寛貴は温かいね…


.


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