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秋桜  作者: 七地
215/258

触れる唇 (8)

友達が迎えに来たタカちゃんと別れて、私達は展示室に戻って魚を眺めた。


「可愛いね…」


…ん?無言??

アニメの主人公と同じ魚を見て呟いても返事が返ってこない。隣を見ると、一緒にいた筈の寛貴がいなかった。


「あれ?」


順番に見てきたからはぐれる訳がないと思いながら辺りを見回したけれど、見当たらない。

どこに行っちゃったの!?



水槽から離れて探したけど、寛貴の姿は見当たらなかった。

寛貴…どこ?



トイレかも!

そう思って歩いていたら…何故か建物から出てしまった。


「通路を間違えた……あ、携帯!」


焦って携帯という存在を忘れていた自分を叱りながら寛貴の番号にかけると、呼び出し音が鳴ってホッとした。

早く出て!


『動くなって言ったよな』


接続音と同時に聞こえてきた不機嫌な声。

動くな、なんて聞いてないよ?


「だって、隣に「梨桜?」」


重なった声に驚いて振り返ると…


「尚人君…」


私の肩を掴んでいたのは、尚人君だった。

そうだ、タカちゃんと会えた事が楽しかったからすっかり忘れていた。同じ学校なんだから彼と会う可能性があったんだ。きっと寛貴はその事を心配していた筈なのに…


「どうしているんだ?」


「課外研修なの。尚人君は修学旅行だったよね」


目を細めて私を見るのは、嫌悪?それとも…


「梨桜…会いたかった」


同じ事は繰り返さない。そう決めたんだ。

顔を上げて尚人君の目を見た。


「尚人君、葵が殴ってごめんなさい。それだけが気になってたの」


「何で梨桜が謝るんだよ」


不満そうに言う彼に、だって弟がしたことだから。と言おうとしたら「姫!」と遮られた。


振り向くと…やっぱり寛貴と同じクラスの二人組。


「姫、寛貴さんが探してた」


そうだ、寛貴!電話の最中だった!

慌てて携帯を耳に当てると、“ツー、ツー、”と空しい音が繰り返されていた。

切れてる…怒って切ったのかもしれない。慌ててかけ直しても繋がらなかった。


「寛貴さんですか?竹本です。姫いましたよ…わかりました。つかまえておきます」


ガッカリしている私の横で傍にいて欲しい人の名前を呼んでいた。どうせ電話に出るなら私の電話に出て欲しかった…

電話を切ると私を見てニヤリと笑う竹本君(?)そういう名前だったんだ。今まで知らなかった…


「姫、はぐれちゃダメだろ。寛貴さんが怒ってたぞ」


「気がついたら寛貴がいなかったの。それより、姫は嫌って何回も言ってるのに!私は東堂梨桜!」


竹本君に言うと笑っている。私は面白くない!


「ムキになるから可愛いんだよ、姫」


可愛くないから、姫って呼ぶの止めて!!きちんと抗議をしようと思い、彼等に向き直ると「梨桜?」と呼ばれた。

あ、尚人君がいるの忘れてた…


「ごめんね」


「梨桜が姫ってどういうことだよ?」


「そんなの決まってる。オレ達のチームのお姫様だから。宮野と初代のお姫様でもあるしな。な?姫、いい加減慣れて」


慣れるかっ!


「チームって…梨桜、お前そんな奴じゃないだろ」


「それ、どういう意味?」


尚人君の言った『そんな奴じゃない』それが心に引っ掛かった。私をどんな人間だと思っているの?


「どうせオレを殴ったアイツも不良なんだろ」


その言葉にカッとなったけれど、握った拳に爪を立てて言い返したくなるのを押さえた。


「そうだね…」


この反応が普通なのかもしれない。

彼等は世間一般的には不良で敬遠される存在。


やっている事は良くない事もあるけど、みんないい人だよ。尚人君に蔑みの対象で見られるような人達じゃない!


「そんな奴等との付き合いは止めろよ!」


「てめぇ…」


尚人君に詰め寄る竹本君の腕を引いた。

私も皆を悪く言われた事が凄く悔しいけど、ここでは我慢してほしい。


「そんな奴って言わないで。皆、いい人なの。仲間を大切にしていて、私にも良くしてくれる」


彼等は真っ直ぐで嘘はつかないよ。裏切ったりもしない。


「梨桜には似合わない。あの男達とは関わらない方がいい。それが梨桜の為だ」


どうして尚人君にそこまで言われなきゃいけないの!?


「尚人君に指図されたくない。私は寛貴の傍にいたいと思ってるし、葵との繋がりは絶対に切れないし無くならない。似合うとか似合わないとか関係ない!」


皆の事を悪く言わないで!


「なんで二人なんだよ!おまえ訳わかんねぇよ!」


苛立って声を荒げる尚人君に言い返そうとしたら、凄く聞きたかった声がした。


「それは…お前がバカだからだろ?」


後ろからお腹に回された腕と背中に当たる胸が温かかった。


「竹本、悪かったな。助かった」


「いえ」


竹本君達は寛貴が来てホッとした顔をしていて、尚人君は私と、私の後ろにいる寛貴を睨みつけていた。


「あのとき屋上で梨桜が言った事、何にも頭に入ってないんだな。お前が偏見持ってるオレ達の記憶力の方が良いみたいだぞ?」


「信じられるかよ!あんなヤツと梨桜が兄弟なんて!」


「あんな奴じゃない!葵の事を悪く言ったら許さない…」


私を宥めるように、前に回した腕に力を入れた。


「お前が信じようが信じまいが、コイツらは双子で梨桜はオレの女だ。梨桜の中にお前が入り込む余地は無い。…残念だったな」


尚人君が唇を噛んで悔しそうに寛貴を睨むと、寛貴は私の体の向きを変えさせた。


「動かないで待ってろって言ったよな?」


「…聞こえなかった。寛貴がいなくて探したの」


「ったく…目が離せねぇな」


頭に手を置かれると、我慢していた涙が零れた。


「泣かなくてもいい…」



.

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