触れる唇 (7)
「ウミガメとペンギンに会える海ってどこだろう」
パンフレットに書いてある生態系を読みながら、世界地図を頭の中に描いてみた。
「ホテルの部屋からウミガメが見えた。あれは…」
少し考えている寛貴に「何処!?」と聞くと「…ハワイだったような気がする」と首を傾げながら答えた。
ハワイでオーシャンビュー…羨ましい。私も行きたい!
「一緒に泳いだ?」
「オレが泳ぐと思うか?」
…思わない。
バルコニーで煙草を吸いながら無表情でウミガメを見下ろしてそう…
「ウミガメと泳ぎたい。とか言い出すわけじゃないよな」
怪訝な顔をしている寛貴。そんなの決まってるでしょ。
「泳ぎたいよ」
「ぶっ…」
吹き出したのは目の前にいる寛貴ではない。誰?と寛貴と笑い声がする方を見ると「わりぃ、聞こえた」そう言いながら笑っているタカちゃんがいた。
「タカちゃん!」
待ち合わせの時間までは早いのに、席の横に立っていて私を見て笑っていた。
「早かったな」
寛貴に手招きをされて席を移ると、タカちゃんは私が座っていた場所に腰を下ろした。
「通りから見えたから…それにしても東堂、相変わらずだな。おまえウミガメと泳ぎたいのかよ」
「さっきはペンギンみたいに泳ぎたいって言ってたぞ」
「東堂、それは無理だと思うぞ」
「気持ち良さそうだなって思ったの…ペンギンは本気じゃないよ」
真顔で正されて、言葉足らずだったさっきの発言を訂正するとタカちゃんは笑っていた。
やっぱり、いいなぁ。タカちゃんって楽しい。
「梨桜、矢野に渡すモノは持ってきたのか」
寛貴に言われて持ってきたプレゼントをテーブルの上に置いた。
「タカちゃん、これ円香ちゃんに渡してね。誕生日プレゼント」
「おう。アイツ喜ぶよ」
小さな紙袋を彼に渡すと、大事そうに自分の脇にそれを置いた。
喜んでくれるといいな。
「いつまでこっちにいるんだ?」
寛貴に聞かれて、コーヒーを飲みながら視線を店の入り口に向けている。誰かいるの?そう思ってタカちゃんが見ている方に目を向けると、同じ制服を着た生徒達がグループで入って来ていた。
「明後日」
明後日には札幌に帰っちゃうんだね…そうしたらまたしばらく会えないね。
「たかちゃん、ご飯食べようよ」
視線を戻してタカちゃんに言うと、腕を組んで考えていた。
「集団行動だから難しいな」
「じゃあ、自由時間は?」
「明日の昼。東堂は授業中だろ?」
授業中だけど、お昼休みにタクシーで行けば時間を作れないことは無い。
寛貴に「行ってもいい?」と聞くとタカちゃんが「コラ」と私を叱った。
「無茶言って困らせるなよ?」
寛貴はタカちゃんをチラリと見ると、彼と比べるように私を見た。
「髪の毛…」
頬にかかっていた髪の毛を払おうと思ったら、寛貴が指で掬い耳にかけた。
「昼の一時間位しか時間がとれないぞ」
「寛貴、ありがとう!」
タカちゃんは私を見て溜め息をついた。呆れられても嬉しいものは嬉しい!
呆れた顔で私を見ているタカちゃんは寛貴に向かって「すげーな、おまえ」と言い出した。
「…まともに東堂の相手ができるのって感心するよ」
それって、どういう意味?結構失礼な発言なんですけど…
ムッとタカちゃんを見ると、寛貴が笑いを堪えていた。
ちょっと、寛貴も失礼じゃない?
「昼飯を奢ってやる。何がいいか考えておけ」
「マジで!?」
寛貴に言われて笑顔になるゲンキンなタカちゃん。
単純だよ、円香ちゃんに言いつけるからね。
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