触れる唇 (6)
ペンギンみたいに水の中でビュンビュン泳げたら気持ちいいだろうな…
彼等の見事な泳ぎっぷりに見惚れていると、腕を引かれた。
「梨桜、また後から来ればいいだろ。行くぞ」
「うん」
寛貴に手を引かれてペンギンの水槽を後にした。
後でまた来るからね!
「ペンギンみたいに泳ぎたいな」
「…無理だろ」
笑いながら言われてしまった。
無理だけど、憧れるっていう意味だよ。
「一口で食べられちゃいそう」
鮫を指差すと、私の頭の上で「でかいな」と呟いていた。
寛貴でも負けちゃうね。
「あ、エイだ。大きいね…」
水槽の上へと泳いでいくエイを見上げていたら、頭がコツンと寛貴の胸に当たった。
「口開けてると間抜けだぞ」
ムッと睨むと余裕の笑みを返されたから、寛貴に体重をかけて寄りかかった。
「間抜けじゃないよ」
「間抜けだろ…次に行くぞ」
歩いている人にぶつかりそうになり、寛貴に手を引かれた。
「余所見をして歩くな」
「ねぇ、タカちゃんと同じ制服が増えてきたね」
叱られたばかりだったけれど、また余所見をして立ち止まった。
これはタカちゃんの通う学校の制服。
「そうだな…」
眉根を寄せて制服姿の高校生を見ている寛貴の顔を覗き込んだ。
もしかして、尚人君との事を心配してくれてる?そうだとしたら…素直に嬉しい。
でも同じことは繰り返さないように頑張るよ。
「寛貴、休憩しよ?」
近くにある可愛いカフェを指差すとフッと笑って私の手を取った。
「入りたいのか?」
「うん…でも、もし嫌ならベンチに座ってお茶でもいいよ」
「何で嫌なんだよ」
「寛貴が女の子達から注目されて嫌な思いをするかなって思ったの」
葵は注目されて『うぜぇ』って怒ってる事が多いから寛貴もそう思うかな…
「入りたいんだろ?」
「いいの?」
「寛貴は食べないの?」
連れてきてくれたカフェで寛貴はコーヒーだけを注文した。
「今はいい。食べろよ」
「いただきます!」
熱々のアップルパイと冷たいバニラアイスクリーム!この組み合わせを思いついた人って偉いと思う!!
「美味しい」
「良かったな」
「ごめんね、居心地悪いでしょ」
お店にいる女の子に注目されていて、寛貴を見た後に私を見て溜め息をつかれてしまう。それは、どういう意味の溜め息なのか…複雑。
「気にするな。おまえさ…主食もそれくらい進んで食えよ」
「これでも食べれるようになったんだよ」
デザートスプーンにパイとアイスを乗せて寛貴の前に差し出すと、ぱくりと食べた。
「甘いな…」
少し眉を顰めて言う寛貴に「でも、美味しいでしょ?」と確認するとコーヒーを飲みながら視線を向けられた。
「梨桜はこういうの好きだよな」
「うん、大好き」
「だからケーキに騙されて合コンに連れて行かれるんだな」
何を言い出すのかと思えば…過去の事を言われても、今は行かないって言っているんだから許してくれたらいいのに…。
「もう、その話はいいよ…葵にもすっごく言われたんだから」
「…シスコン」
クッ、と笑ってコーヒーを飲んでいる。
何だかこれって、デートみたい…楽しい…
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