進路相談と大好きな人Ⅱ (4)
何故か生徒会室で始まった三者面談。
安達先生と慧君はソファに座って寛いでいる。
「進路相談って言ってもな…安達、自分の時何て答えた?」
「…今も昔も、この学校で生徒会に入ってる奴等の進路相談なんて適当でしょ」
緊張感ゼロの三者面談なんですけど…
わざわざ慧君を呼ぶ意味は無いんじゃないの?
「先輩は何て答えたんですか」
「オレ?親の都合が悪くて姉貴が来たんだよな…」
ママが?
「何で喧嘩になったかは覚えてないけど、途中ですげー言い合いになって売り言葉に買い言葉で『だったら、1番の大学に首席で入ってやる!』って啖呵きっちまったんだよ…狸も吃驚してたぞ」
ハハハ!と笑って話しているけど、兄弟喧嘩で進路を決めた慧君て本当はおバカさんなんじゃないだろうか…
先生も複雑な顔をしているからきっと同じことを考えていると思う。
「首席で入るって言っちまったから、得意教科で勝負するしかないだろ?だから理系を選択して、首席になれそうな学部を選んだ」
先生が買ってくれたペットボトルの温かい紅茶を一口飲んで気付かれないようにため息をついた。
…やっぱりおバカさんだ。
「葵の三者面談にも行って来たんでしょ?どんな話をしたの?」
少し考えていたけど、私を見てニッコリ笑って一言。
「『半端は許さねぇぞ』以上」
え?
「それだけ?」
先生がお茶を吹きだしそうになってる。
「それだけ。終わるの早かったぞ」
慧君の三者面談で喧嘩をしたママも凄いけど、ママの息子の三者面談でそれだけしか言わない慧君て…
ママと慧君てどっちもどっちだね。
「葵は何か言ってた?」
「別に…無言だったな。生意気に溜め息ついてたぞ」
葵の気持ちが良く分かる。私もそんなこと言われたら溜め息が出るよ。
担任の先生も吃驚しただろうな、お気の毒。
「今の成績で行く大学なんて限られてるだろ。慢心して、レベルを下げた受験をしたらオレは怒るぞ」
そう思ってるなら言ってあげればいいのに…
「梨桜も葵と同じ大学に行けるだろ」
「そうですね、A判定が出ると思いますよ」
葵と同じ大学…
先生は「先輩と同じ大学だぞ」と笑っていた。
昔、ママが『ウチは双子だから全部2倍かかるのね』って笑っていた事を思い出した。国公立の大学に進学したら少しは親孝行できるかな…
・・――――
――――・・
参加自由の特別授業は学校で一番大きな講義室で行われることになったけど、人が一杯で入りきらないくらい盛況だった。
「三者面談はどうだった?」
1年から3年まで受講希望の生徒が犇めいている講義室で、寛貴は現トップらしく窓際の一番いい席に座っていた。
「んー…結局良く分からないまま終わっちゃった」
寛貴の隣に座りながら言うと、「初代と安達だもんな」と少し呆れたように笑っていた。
志望大学を決めるのは後でいいから、理系か文系かどちらを勉強したいか考えるように言われて終わってしまった。
話が終わると、先生と慧君は昔の話で盛り上がってしまい、私は時間が来るまで慧君の隣で編み物をしていた。
「文系か理系か…寛貴は?」
「文系」
そっか、文系か。葵は理系だったような気がする。
皆、将来の事を考えて行動に移して行くのに、私は自分の身体の事で精一杯だった。
でも、これからの事を考えなければいけないんだね…
「…」
考え込んでいたら、手を握られた。
「自分に素直になればいい」
寛貴を見ると教卓を見ていて、いつの間にかぎゅっと握りしめていた私の指を開かせ、指を絡めて手を繋いだ。
「ありがと」
私の将来。
私がやりたい事。
私に出来る事。
自分の気持ちと向き合う事から始めよう…
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