進路相談と大好きな人Ⅱ (1)
「…だるい」
朝、目が覚めたら頭痛がして体がだるい。
また風邪を引いた?そう思って自分の喉元に手を当てて見るけれど、風邪の調子悪さとは違う感じ。
「おはよ…」
着替えてリビングに行くと、ジーッと私を見ている二人がいた。
「どうしたの?」
「…調子が悪そうだな」
慧君に聞かれて頷いて両手で顔を覆った。
顔もむくんでいる気がする。
「朝起きたら、頭が痛くてだるいの…どうしてだろう」
「どうしてって…梨桜?」
やっぱり慧君と葵が私を見ている。今日の私ってそんなに酷い顔してるんだ…
学校に行くの嫌だな。
「覚えてない。とか言わないよな」
覚えてない?…何の事
「何が?」
そう聞いたら、慧君が笑い出した。
何がそんなにおかしいのか、ゲラゲラ笑い過ぎ!
「慧兄、うるさい。梨桜、二度と酒は飲むなよ」
葵に言われて首を捻った。
お酒なんか飲んでないよ。
「飲んでない」
「飲んだ。っつーか、飲まされたんだよ。覚えてないのか?」
昨日は慧君の後輩さん達と会って、挨拶をしてご飯を食べたんだよね……
そう言えば、途中からの記憶が無い。
あれ?どうやって帰って来たの?
「私、変なことした?」
そう言うと、今まで笑っていた慧君が眉を顰めて私を見た。
「変な事をしたら困るから二度と酒は飲むな。いいな?」
どうしよう、本当に何も覚えていない。
…私、何をしたんだろう?
慧君に学校まで送ってもらうと、携帯で誰かと話し始めた。
「オレだ。…今日は午後からだったよな?……校長が?うるせぇって言っておけ。――――ぜっったいに、嫌だ!」
誰と話しているのか、相当嫌がっている。
「ふざけんなよ、勝手に決めるな!!…おい、安達!!」
切れてしまったらしい携帯を睨みながら「くっ…そ、あの狸!!」元総長の片鱗を見せていた。
安達って安達先生?狸って?
「慧君?」
ハンドルに額を付けて「嫌だ!」と唸っている。
「どうしたの?」
「狸が梨桜の面談が終わったら特別授業をしろって言い出した…」
面談?…特別授業?
意味が分からなくて慧君を見ると、ハァ、と溜息をつきながら教えてくれた。
「今日は梨桜の3者面談の予定だったんだけど、それが終わったら2年の化学の授業の講師をしろって言い出しやがった」
3者面談?そんなの聞いてないんですけど…
「安達がオレか義兄さんがいる時に面談をしたいって煩かったんだよ。まだ決めてないんだろ?」
そういえば、“理系か文系”どっちか決めてくれって先生から言われていたけどあんまり深く考えていなかった。
「面談は分かったけど、狸って誰?」
「狸は狸だよ。校長」
あぁ…狸、ね…
全校集会や、朝会の時に見ている校長先生を思い出してみれば、確かにあの大きなお腹が似ているかも。
「慧君が通っていた頃から知ってるの?」
「狸はオレが生徒会長だったときの顧問だよ。相変わらず人の事を使いやがって」
ブツブツ文句を言っている慧君に「午後の面談でね」と手を振って校舎に入った。
1時限目は体育で私は自習。私はまだ少しだけ痛む頭を抱えて屋上へ避難。
葵から『二日酔いだ!』って怒られたけれど、私は「リンゴジュースだよ」って言われて飲んだんだもん。
私に罪は無いと思う…
…どこからか煙草の匂いが流れてきている。
寛貴に置いてもらったベンチに座っていたら、ウトウトと眠ってしまった。
慧君からもらった鍵で屋上へ来た時に鍵は閉めた筈、ここに来ることが出来るのはマスターキーを持っている人だけ。
おまけに堂々と学校で煙草を吸うなんて心当たりは彼等しかいない。
「!?」
目を開くと、目の前に顔があって吃驚した。
「梨桜ちゃん、おいで~!」
しかも、私に向かって両腕を伸ばしている。
どうして拓弥君が“抱っこ”のポーズ?
「あ、固まった」
私が動けないでいると、何が楽しいのか大爆笑している。
相変わらず人をからかうのが好きだよね、私は拓弥君の玩具じゃないんだから!
「悠に抱きついて、寛貴に抱きついて…オレだけ抱きつかれてないなんて不公平じゃねぇ?」
え?
「あれ、その顔…もしかして覚えてない?」
今、拓弥君は『悠に抱きついて、寛貴に抱きついて』って…
えぇっ!?
「ウソッ!!」
「嘘じゃねーよ。正確には悠→初代→寛貴→宮野、だな」
ニッコリ笑って両腕を私に伸ばしている拓弥君。
嫌だ!!私ってば何てことしたの!?
…だから、今朝葵と慧君は私を見てたんだ。
「ほら、おいでよ梨桜ちゃん」
両手で顔を覆って思いっきり首を横に振った。
「…いい加減にしろ、拓弥」
「そんなに睨むなよ。ったくおまえは…冗談だよ!やめろって!!…オレは先に行くからな」
慧君は『変な事をしたら困るから二度と酒は飲むな。いいな?』って言ってたけど、もう変な事をしちゃったんじゃない!!
どうしよう!!
「梨桜」
なんで覚えてないのよっ!?…でも、覚えてたらもっと恥ずかしいかも…
人前で寛貴に抱きついたんだ…何人が見ていたんだろう…
「落ち着け」
手を取られて、顔を上げると寛貴の顔が目の前にあった。
「…覚えてないのか?」
頷くと「本当に覚えてないのか?」と確かめられてもう一度頷くと私を抱き寄せた。
温かい。寛貴の胸に頬を寄せると、腕に込められる力が強くなった。
「寛貴、苦しいよ?」
苦しいって言ったのに、ぎゅうっと強く抱きしめられた。
本当に苦しいよ!
「…梨桜、宮野に言っておけ」
葵に?
何を言い出すんだろうと思って寛貴の顔を見上げると触れるだけのキスをして、いつもの私が大好きな表情で笑みを浮かべた。
「“オレを甘く見るな”…分かったか?」
「何それ」
「そう言えば分る」
そう言うと寛貴はもう一度キスをした。
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