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秋桜  作者: 七地
202/258

足りないものは…(12) side:コジ

数か月前までは、絶対にありえなかったこの状況。


これといって目的があるわけでもなく青龍のチームハウスに集まっているオレ達。

青龍と朱雀はいつからこんな風につるむようになったんだ?


この場に居ないから余計に実感させられる。

梨桜さんの存在が凄く大きいっていう事。


「梨桜ちゃんの熱が下がった」


愁さんが携帯を見ながら一言。


「見舞いに行く!」


立ち上がった海堂につられてオレも立ち上がった。


「オレも行きたいです!」





『今、手が離せないから勝手に上がってこい』


葵さんの言葉に二人が住む部屋に入ったんだけど…



「野郎ばっかり…鬱陶しいな」


オレ達を見るなり葵さんが言い放った一言。

確かにオレもそう思うけど、そんなにハッキリ言わなくてもいいと思う。

その顔に言われると、傷つきます。


「コジ、オレは今手が離せないからコーヒー淹れろ」


オレはキッチンを借りて人数分のコーヒーを淹れた。

葵さんは手にタオルとドライヤーを持って「梨桜!」と呼ぶと梨桜さんが自分の部屋から出てきた。


「皆、来てくれたんだ」


部屋着なのにすげー可愛い梨桜さん。

手触りが良さそうなモコモコしているワンピースを着ていて耳と尻尾をつけたら羊になりそうだ。


「もう大丈夫なの?」


大橋からお土産を渡されて「ありがとう!」と笑みを浮かべた梨桜さん。

この顔を見るのは久しぶりだ。


「梨桜」


もう一度葵さんに呼ばれると「ちょっと待っててね」と言い、リビングの隣の部屋に行くと葵さんの足の間にストン、と座ってしまった。


「コジ、梨桜にカフェオレ淹れてやって」


「ハイ!」


葵さんがオレに言うと、ドライヤーで梨桜さんの髪を乾かし始めた。

手が離せないって、…これ?




梨桜さんの髪の毛を乾かした葵さんは梨桜さんの為の食事を作り始めた。『葵のご飯は美味しいよ』いつも聞いていたけれど、料理をするのはあまり見たことが無かった。


「何作ってんだ?」


愁さんが聞くと片手で卵を割りボウルに落とした。

すげー!


「フレンチトースト。具合が悪いとき梨桜が文句を言わないで食う数少ないメニュー」


手際のいい葵さんに見惚れていると、後ろの方で「梨桜ちゃん!」と海堂が呼んでいた。


海堂に手招きされて、藤島の隣に座った梨桜さんを大橋が笑っていた。

何時の間にか藤島の隣が定位置で、自然に座っちゃうんだ。


拗ねた葵さんの気持ちが少しだけ分かるかも…


「課題のプリント」


「…うわ、いっぱいあるね」


捲りながら見ている梨桜さんから藤島がプリントの束を取り上げてテーブルの上に置いた。


「課題はやらなくていいから早く治せ」


「ええ?!」


藤島の言葉に思いっきり抗議している海堂。梨桜さんは吃驚してそれを見ていた。


「悠、お前の企んでる事くらいお見通しなんだよ。ココで梨桜ちゃんの答えを写すつもりだったろ」


大橋に言い当てられて拗ねたように口を尖らせている海堂を見てクスクスと笑っている梨桜さんは楽しそうだ。


あー…なんか、複雑。






さっきから繰り広げられている光景はいつもの二人のやり取り。

オレはこれが見れて満足だ!



「食べたら寝ろよ」


「眠くない」


「いいから寝ろ。昨日みたいに編み物なんかするなよ」


「だって、課題だもん」


ぷいっと顔を背けて野菜スープを飲んでいる梨桜さん。

食事をしながら『寝ろ』『眠くない』の応酬をしている。


このやり取りを見ていると、頬が緩む。


「これ以上拗らせてどうすんだよ」


「…」


梨桜さんが渋々頷くと、葵さんがフォークを持ち、フレンチトーストを刺して梨桜さんの唇をツンツンとつついた。


「手が止まってる」


梨桜さんは口を開いてパクりと食べた。

メープルシロップが口の端についてしまい、梨桜さんが自分で拭う前に葵さんが指で拭っていた。


「わざとでしょ」


ムッと葵さんを見ている梨桜さんにニヤリと笑って返す葵さん。


「お前の食い方が下手なんだよ」


「うそ。たこ焼きのことまだ根にもってるんだ」


「…バカかお前は、もっとデカイ口あけろ」


葵さんを睨んで、口を開けている梨桜さん。


「フレンチトースト美味そう」


つい、口に出してしまうと梨桜さんが「食べる?」と笑って聞いた。


「え…いいんですか?」


「うん、いいよ」


「いいから早く口を動かせ」


葵さんはオレを睨むと梨桜さんの口にフレンチトーストを運んでいた。


「雛鳥みてぇ」


大橋の言葉に藤島が苦笑していた。


オレも思う。これが本当の餌付けだったりして…



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