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秋桜  作者: 七地
200/258

足りないものは…(10) 

「……」


こんな筈じゃなかったのに…完全に読み間違った。


「うぅ…」


熱い。


苦しい。


頭が、体中が痛い。




葵に家の鍵を投げつけた後、家に帰らないと言って引かない私に桜庭さんは困り果てた顔で私を宥めようとしたけれど、私は首を縦に振らなかった。



『ここからは一人で大丈夫』


『ダメです。帰りますよ』


『葵の所には帰らない』


『一人でどこに行くんですか!危ないでしょう!!』



このやり取りを何回もして、妥協した桜庭さんは一つの提案をした。


『オレの姉貴が勤めているビジネスホテルがありますから今日はそこに泊まって下さい。絶対に明日は家に戻って下さいね!』


『これは譲りません!』


強く押し切られてしまった。

寛貴に話そうかと思ったけど、それが葵に知られたら拗れるし、他に行くあてもなかったから桜庭さんの言葉に頷いた。


『明日は必ず家に帰ってくださいね。葵さんと良く話をして仲直りして下さい』


何度も念を押されたけれど、桜庭さんが予約を取ってくれた宿泊日数を変更した。


宿泊日数は一泊から三泊へ…桜庭さんには申し訳ないけど、あんなに頑なに私を拒絶した葵が家に戻って来るとは思えなかったから。


葵、分かってる?葵から拒絶されたら私には行くところが無いんだよ。

パパか慧君のところに行ったら、また離れて暮らすんだよ…


私はそんなの嫌、葵と一緒がいい。




着替えや細々としたものを買い揃えてビジネスホテルに泊まったんだけど…次の日の朝に異様な倦怠感に襲われて体を起こすことができなかった。


一度家に戻ろうと思っていたけれど諦めた。葵が家に帰っていたとしても、こんな状態でまともな話なんかできない。


その日は学校に休む連絡をして、寛貴にもメールで伝えて涼先生のところに行って薬をもらった。

そこまでが限界で病院からホテルの部屋に帰るなりベッドに潜り込んで、そこから先は覚えていない。



今も、体が熱くて目が覚めた。


時間を確認したくて携帯を見ると、充電切れで電源が落ちていた。


何も食べないで、薬も飲まずに寝てしまった。

風邪を悪化させたら涼先生に怒られるんだろうな…


何かを口に入れなきゃ、そう思って無理矢理体を起こした。


「気持ち悪い…」


汗でベタついた体をシャワーで洗い流そうとして『葵に怒られる』と思って戸惑ったけれど、ここに葵はいないからそのままシャワーを浴びた。


そう、ここに葵はいないんだよね…

熱を出すといつも看てくれた葵がいない。


葵はまだ怒ってるのかな…




ホテルの外に出ると周囲は暗かった。


「暗い…」


今って夜だったんだ。日付が変わっていないのか、変わった夜なのか…全然分からない。

私は何時間寝てたんだろう?


暗い空を見上げるとクラクラする。

溜息をついて歩き出すと、足を踏み出す毎にグラグラと体が揺れた。


車道と歩道の境目に立てられているフェンスに腰を預けるようにして寄りかかり、眩暈が治まるのを待った。

やっぱりまだ寝てなくちゃダメなのかな…部屋に戻ろうかな。


「梨桜さん!」


急に名前を呼ばれて顔を上げると、ホテルの方向から人が走って来るのが見えた。

…桜庭さん。


家に帰らなかったのがバレちゃったかな…

息を切らせて私の所まで走って来ると、想像通りの言葉を言われた。


「どうして帰らなかったんですか!」


大きな声が頭に響く…

桜庭さんは「どうしてですか」と言いながら眉尻を下げて困ったような顔をしていた。


「…帰るって約束したじゃないですか」


もしかして、葵に何か言われた?


「ごめんなさい、目が覚めたら具合が悪かったの」


そう言うと、ますます困ったような顔になってしまった。


「葵さんに連絡しなかったんですか?」


「だって…今連絡したら、また葵に看病させちゃうでしょ?」


「心配してますよ」


どうだろう?

心配してくれてるかな…

首を傾げて桜庭さんを見ると、少し屈んで私の目線に合わせると「帰りましょう」と言った。


「今は帰れないよ。もう少し具合…きゃぁ!」


急に後ろに体を引かれて、フェンスに腰を下ろしていた私は背中から地面に落ちそうになった。


でも、地面に落ちることなく反転したままの視界に映ったのは、見慣れたサラサラの髪の毛。


「…」


吃驚して声が出なかった。

どうしてここにいるの?まさか、心配して捜しに来た…なんてね。

バランスが悪くて、今にもお尻から地面に落ちてしまいそうな状態を何とかしようと思って身動ぎしようとしたら、ぎゅっといつもよりも強く抱き込められた。


「…ごめん」


聞き逃しそうになる位の小さな声を聞いて身体から力が抜けてしまった。

私もごめんね…言い過ぎた。


「梨桜?」


葵、もう一つごめんね…


「おい、梨桜!?」


葵に抱えられているのに頭と体がグラグラ揺れていて、目が回る。

もう…駄目。



.


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