表と裏 (2)
駅までの帰り道で、後を付けられているんじゃないかと思った。
宮野葵の彼女を捜しているならブレザーの制服に着替えないほうがいいような気がしたから、そのまま電車に乗り、自宅がある駅を1つ通り越して降りてホームから葵に電話した。
『梨桜?どうした』
「今D駅にいるの。誰か迎えに来てほしい」
『わかった‥‥駅前の公園まで来れるか?』
「うん」
『今からコジを公園に向かわせる。公園の奥に行かないで手前の広場のところで待ってろ』
「うん、ごめんね」
駅前の公園は広くて奥に行くと噴水やベンチがあった。
手前の広場には子供を連れた若い母親達がいたけれど奥にいくにつれて人が少なくなっているようだった。
葵に言われたとおりに広場で待つことにした。
「ねぇ、紫苑の子がなんでこんなとこにいるの?」
声をかけられて振り返ると葵と同じ制服を着た男達がいた
3人の男たちは少し制服を着崩していて、何となく不良かな、と思えた。
「彼氏と待ち合わせ~?」
「彼氏、びびって近寄れないんじゃね?」
語尾を伸ばしながら話す、その話し方と笑い方が厭らしく見える。
葵のチームにはこういう人もいるんだろうか?
「メガネちゃんも朱雀に憧れて入学したの?」
3人に取り囲まれてニヤニヤと笑いながら私を見下ろしている
この人達、怖い‥
「うちにも青龍ってチームの幹部いるの知らない?」
「‥‥知ってる」
「んじゃなんでこんなとこ来ちゃうかな~?青龍の傘下チームの溜まり場なのに」
ニヤリと笑った顔に涙が出そうだった。怖くて気持ち悪い
「紫苑の子ってレアなんだよな、一緒に遊ぼうよ」
「待ち合わせしてるからいい」
手を掴まれて抵抗していると
「んだよっいいから来いよ!勿体つけてんじゃねぇよ!」
怒鳴りつけられた。
「やめろ!」
大きい声が響いて、驚いてその方を向くと良く知っている顔がこちらに走ってきていた
「コジ君」
「小嶋さん、なんで?」
「その人から手を離せ!」
コジ君のいつもと違う低い声にビクッと震えてしまった
もうやだ、不良の世界なんてわからない!
「その人から手を離せ!聞こえないのか!」
ジワッと涙が浮かんできてしまい、メガネを外して涙を拭った。
「コジ君、大丈夫だから‥‥」
大丈夫だからそんなに大きい声で怒鳴らないで、怖い‥‥
「コイツらに何もされませんでしたか?」
振り返り私に声を掛ける彼はいつもの優しいコジ君だった。
男達は急に態度が変わったコジ君に呆然としている。
「うん」
「すみません、怖い思いさせて」
私の顔を覗き込むのはやっぱりいつもの優しいコジ君だった。
「私が悪いの、葵の迎えを待ってなかったから‥‥勝手に帰ってきたから‥‥コジ君ごめんね」
本当にごちゃごちゃしてきた。
「梨桜さん、怖がらせてすみません。今、葵さんが来ますからね?ベンチに座って待ちましょう?」
少し哀しそうに笑う彼の顔を見て、私を心配してくれているコジ君を、安易に怖かったなんて思ってはいけないんじゃないかと思えた。
目の前で心配そうな顔をしている彼もさっきのドスがきいていた彼も両方コジ君だ。