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秋桜  作者: 七地
198/258

足りないものは…(8) 


葵の為の夕食が無駄になって4日目。

ついに私のイライラも頂点に達した。


「いい加減にしなさいよね!」


これ以上の我儘と自分勝手は許さないんだから!!引き摺ってでも連れ戻す!!


申し訳ないと思いながらいつもお世話になっている人の携帯番号を押した。


「こんな時間にごめんなさい」


『姫?どうしました?』


「桜庭さん、お願いがあるんです」





『葵のところに連れて行って下さい』

桜庭さんは私の家まで迎えに来てくれて、葵のいるところに連れて来てくれた。


「ここですか?」


連れて来てくれたところは…クラブ。

熱を出したっていうから心配したのに、自分はクラブで夜遊びですか…


「今、中に連絡しますから待って…梨桜さん!ダメですよ!」


桜庭さんの制止を聞かないで葵がいるらしいお店に入った。


「…誰のツレ?」


入り口で聞かれてその人を見るとピアスをたくさんしている男の人が私を値踏みするように見ていた。


「葵」


「葵さん?…葵さんからは何も聞いてないから入れてあげられないな」


愛想笑いを浮かべる受付の男に私も愛想笑いを返した。

店の入り口に群がっていた人達が私を見ていて居心地が悪い。


「そう。だったらコジ君か愁君」


「は?…幹部の名前を言えばいいと思ってる?」


「葵に話があるのよ」


「…葵さんには無いと思うけど?多いんだよね、葵さんに会いたくて知り合いのフリをする女。ここにいる奴等も青龍に憧れていて中に入りたいけど入れない連中」


彼が指す方を見ると男と女が店の中を覗き込むようにしながら葵達の話をしている。


「可愛いから入れてあげたいけど…入りたいなら青龍のメンバーと一緒においでよ」


ここまで来て葵に会えないなんて冗談じゃない。絶対に連れて帰るって決めてるの!


「愁君をここに呼んで」


「だからさぁ」


しつこいな、と受付の男は眉を顰めて私を見下ろしていて、私は彼を睨み返した。

私が『葵』と名前を呼び捨てにしている時点で気付かないんだろうか?


「梨桜さん!待って下さいって言ったのに」


私に追いついた桜庭さんに「一人で行っちゃダメですよ」と窘められた。


「桜庭さんの知り合いですか」


受付の男は桜庭さんに頭を下げると、私と彼を交互に見ていた。


「…この人はウチの姫だよ」


「え?姫って…」


呆気にとられている受付の男。

私はそれを無視して桜庭さんに向き直って抗議した。


「桜庭さん、それ嫌」


桜庭さんは優しく笑いながら「嫌でも姫は姫です」と言うと受付の男に葵がいるか聞いていた。


「葵さんならいつもの席に…ちょっと!!」


これ以上時間を無駄にしたくなかったから、受付の男を押しのけて店の中に入った。


薄暗い店の中で、中にいる人に「葵は?」と聞くと奥の席を指していて、教えられた方を見ると、奥の席にいる葵が見えた。


煙草を銜えて何を考えているのか分からない顔をしている。

両脇には女が座っていてベタベタと触られているのにそれを退かそうともしない。

あんなの葵じゃない。



葵達がいる席に近づくと女達に睨まれた。


「誰の許可でVIP席に来てるの」


女を睨み返すと倍の目力で睨み返された。

女って…怖い。でも、ここで引き下がるわけにいかない。



「梨桜ちゃん?」


私に気付いた愁君が私をソファに座らせようとしたけれど首を横に振って葵の前に立った。


私を見ようとしない葵はグラスを口に運んで煙草を吸っている。


「いつまでそうしてるつもり?」


「うるせぇな」


葵にベタベタと触り続けている女が目障り。

私には付き合う人の事で口を出すのに自分はまわりに女の子を侍らせるんだ…

自分勝手過ぎるよ。



「葵」


葵に声をかけても視線すら向けないで私を無視していて、コジ君がハラハラした顔で私と葵を見ている。


周りまで巻き込んで情けない…


「聞こえてるんでしょ?」


それでも私を見ようとしない葵にプツンと堪えていたものが切れた。


「いい加減にして!」


大きな声を出すとゆっくりと私を見たけれど、それでも何も言わなかった。

葵から拒絶されて、悲しくて悔しくて涙が出た。


「もういい!そんなに嫌なら私が出ていく!!」


バックからキーホルダーをとって葵に投げつけると葵の胸に当たって落ちた。

葵が何か言いかけたけれど、葵に背中を向けて涙を拭ってVIP席を後にした。



「梨桜さん、待って下さい!!」


コジ君が私を追いかけてきてくれたけど、立ち止まらないで店から出た。


「…っ、葵のバカ」


葵がこんなに頑固だなんて思わなかった。もう知らない!好きにすればいい!!


「梨桜さん、帰りましょう。送って行きます」


桜庭さんが待っていてくれて、車のドアを開けてくれたけど、乗りたくなくて首を横に振った。


「梨桜さん?」


「ウチには帰らない」


「わがまま言わないで…帰りましょう」


帰れないよ。…だって家の鍵を葵に投げつけちゃったもん。葵が鍵を開けてくれないと私はマンションにも入れない。


「…もういいの。私も家出する」


桜庭さんを見上げて言うと、ギョッとした顔をして「梨桜さん!?冗談は止めてください」と慌てていた。


「桜庭さん、私本気だよ」



.


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