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秋桜  作者: 七地
194/258

足りないものは…(4) 

朝、学校に着いてから授業が始まるまでの時間も編み物の時間。


「梨桜ちゃん一生懸命だね」


「うん」


麗香ちゃんが「そうやるんだ~」と私の手元を眺めていた。

昨日決めたの、早く編み終わらせて寛貴の分も編もうって…着てくれるかどうか分からないけど、寛貴の為に編みたくなったの。


「梨桜ちゃん、携帯鳴ってるよ」


教えてもらってメールを確認したら…


――熱が出たから休む。帰りは拓弥に送ってもらえ――




授業が始まる直前に届いたメール。

いつも心配をかける事はあっても、私が心配する事は無いに等しい寛貴が熱を出した…


“大丈夫なの?”


“病院に行った?”


高熱を出す時の辛さは誰よりも分かっているつもり。


“寛貴、大丈夫?”


休み時間に送ったメールの返事を次の休み時間に確認するけれど、返事は帰って来ない。

素っ気なくても必ず返事をくれるのに…今日の寛貴は返事をくれない。


すっごく心配!!家の中で倒れてたらどうしよう…



「それで一人でここまで来たのか?寛貴に一人で来るなって言われてるだろ?」


心配だったから…駄目だと言われていたけれど、一人で二年の教室に来てしまった。

「おいで」と言われてまた教室の中に入ってしまったけれど、寛貴がいないココに居ても寂しい。


「ガキじゃないんだから大丈夫だろ」


拓弥君はあまり心配していないみたいだけど、熱を出すのって辛いんだよ?


「だって…寛貴からメールが返って来ないんだもん。家の中で倒れてたらどうしよう?」


突然、フハッと笑いだした拓弥君。キッと睨むと慌てて緩んだ表情を元に戻していた。


「酷いよ、拓弥君は心配じゃないの?」


「悪い…寛貴が廊下で倒れてるのを想像したら笑えた。…梨桜ちゃん、アイツなら大丈夫だと思うぞ」


そんなの分からないじゃない!

もしかしたら、動けなくなってるかもしれないでしょ!


拓弥君は笑いながら私の頭に手を置いた。


「そんなに心配なら行くか?」


「え?」


行くって?


「寛貴の家」


「え、でもご家族が…」


寛貴の家。と言われて急に尻込みしてしまう…

だって、好きな人の家に行くなんて初めてだよ?お母さんに会ったら…緊張するでしょ!


「あ~…心配しなくていいよ、寛貴は殆ど一人暮らしみたいなもんだから。家政婦はいるかもしれないけどな」


殆ど一人暮らし?…どういう事?


「ホラ、行くぞ」






強引に連れて来られた…日本家屋の豪邸。

寛貴ってこんな凄い家に住んでたんだ。


「凄いお家だね」


「ああ」


呆気にとられて豪邸を眺めていると拓弥君に「そこだとカメラに映るからこっちに来て」と手を引かれて場所を移ると、インターホンを押していた。


「寝てんのかよ」


呼んでも反応のないインターホン。


「だから動けないかもしれないって言ったじゃない」


「アイツは頑丈だから…そんなに心配しなくてもいいよ」


そう言うともう一度インターホンを押していた。


『…なんだよ』


不機嫌そうな声が機械越しに聞こえた。

寛貴だ…


「見えてんだろ、早く開けろ」


『…』


ピッという電子音の後にカチャリと解錠される音がした。


「何してんの、行くぞ」


急かされて門からの長いアプローチを歩いて玄関に辿り着くと、拓弥君は勝手に玄関を開けていた。

いいのかな…そう思っていると


「おい!見舞いは届けたからな!玄関に取りに来いよ」


家の中に向かって大きな声で言うと「じゃーね、梨桜ちゃん」そう言って帰ってしまった。


「ちょっと待って!拓弥君!?」


ひらひらといつものように手を振って玄関の扉を閉めてしまった。

こんな広いお家に一人残していかないでよー!


「梨桜?」


振り返ると髪の毛が濡れている寛貴が立っていた。


「熱があるのにお風呂入っちゃ駄目だよ」


寛貴に注意しながら、そういえばいつも葵から怒られているな…そう思って少し反省した。


「熱なら下がった。…それより、なんでいるんだよ」


「なんでって…メールしたのに返信が来ないから、動けないくらい酷いのかと思ったの」


心配したのに『なんでいるんだ』なんて、来ちゃいけなかったんだね。


床に置いていた鞄を手にして「大丈夫みたいだから帰るね…」そう言って、寛貴に背を向けたら、首に腕が巻き付いた。


「見舞に来たんじゃないのか?」


葵といい、寛貴といい…毎回そうやって私の動きを止めるのやめて!


「苦し…」


「帰るなら何か作ってからにしてくれ。…腹減った」


「食べてないの?」


私の首に巻き付いているせいで背中に寛貴の胸が当たっていて、心なしかいつもより体が熱いような気がする。


「ああ…さっき目が覚めた。早く上がれよ」



リビングのソファに座ると、喉が渇いていたのかペットボトルの水を一気に飲み干していた。


「髪の毛濡れたままじゃ駄目だよ」


寛貴の前に立って濡れている前髪を掬って寛貴の額に手を当てた。熱いのは、お風呂上がりだから?まだ熱があるから?


「本当に熱、下がったの?」


「下がった」


寛貴は私を見上げると、ぐらりと上半身が揺らいだ。

慌てて寛貴の身体を支えると、私の腰に自分の腕を回してお腹に顔を埋めていた。


「ねぇ、やっぱり熱があるんじゃないの!?」


寛貴の肩を押して顔を見たら、潤んだ瞳で見つめ返されて…


「梨桜…オレ、マジで腹減った…」


「…」


不謹慎だけど、こういう寛貴って可愛いかもしれない…


.

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