足りないものは…(1) side:悠
定例会。なのに、お姫様の姿は無い…HRが終わるとパタパタとどこかへ行ってしまった。
彼女から目を離すとオレ、滅茶苦茶怒られるんだよな…
「梨桜はどこだ」
宮野に聞かれて「分かんね…」と言うと、寛貴さんがオレを見ていた。
「悠、どういうことだ」
やっぱり怒られる…
そう思ったら、拓弥さんが「丁度いい」と言い出した。
宮野と寛貴さんに鋭い視線を向けられた拓弥さんは、一瞬表情をこわばらせたけれど、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「梨桜ちゃんがいない時にしかできねー話だ。おまえの謀った通りになったようだぜ」
三浦が口角を上げると、拓弥さんが携帯を三浦に投げた。
「へぇ…単純すぎて興醒めするな」
三浦は画面を見ると、拓弥さんに携帯を投げ返していた。
「拓弥、さっさと言え」
苛ついている寛貴さんが睨むと、拓弥さんは肩をすくめて携帯をしまっていた。
「札幌のバカ女からメールが来た」
拓弥さんの言葉に宮野と寛貴さんが眉を顰めていて、三浦は口角を上げて笑っている
「修学旅行で東京に行くから梨桜ちゃんに会って謝りたいけど、梨桜ちゃんはきっと怒ってるからとりなしてくれだって。…どうする?」
寛貴さんは鼻で笑った。
札幌でバカな女がいたっていうのは聞いてはいた。詳しくは教えてもらっていないけれど、梨桜ちゃんに対抗心剥き出しにして張り合うなんてバカな女もいるもんだと思った。
「拓弥、あの女が心から反省すると思うか?」
携帯を弄りながら拓弥さんは笑って言った。
「しないだろうな‥‥分り易すぎて笑った」
「梨桜には会わせない。お前がバカ女の相手しろよ」
宮野が言うと、拓弥さんは大袈裟に体を仰け反らせて嫌だとジェスチャーをしていた。
拓弥さん、うさんくせぇ…
「え~、やだ!オレああいうの駄目。嫌い」
「オレには喜んでやっているように見えたけどな」
寛貴さんから冷たい視線を浴びて、拓弥さんは口を尖らせてブツブツと言い出した。
「三浦に言われたからやったんだよ。そうじゃなきゃあんな根性が曲がったブス相手にするかよ」
「おまえが適任だろ?甘い顔をしておけばいずれ尻尾を出すと思ったんだよ。オレ達に相手にされなくてもお前が優しくすれば、絶対に食いついてくる」
三浦が冷たい笑みを浮かべていて、隣に座っている小嶋が怯えたような眼でそれを見ていた。
マジで黒いよな、こいつ。腹ん中は真っ黒だぜ。
「オレは愁に言われたとしても嫌だ。ああいう女には虫唾が走る」
宮野が眉を顰めながら言うと、三浦は笑いながら返していた。
「梨桜ちゃんが絡んでるから過剰に反応してるんだろうけど、とにかくあの女は大橋に任せる」
冗談じゃない!と身を乗り出した拓弥さんは本気で嫌そうだ。
「オレにあの性格ブスを押し付けるなよな!」
「良く言うよ、ノリノリだったじゃねーか。屋上で盗み聞きしてるあのブスを追いかけて慰めて…オレが指示した以上の事をしてただろ?」
「…どこまでつけあがって来んのかな、って思ったんだよ」
この二人、酷い。酷過ぎる…
オレだったら泣く。
「梨桜があの女の面を見なければどうでもいい」
どうでもいい…寛貴さんも結構冷たい。
マジで梨桜ちゃんの前から排除したいんだな…
「ところが、そうはいかないんだなー。課外研修のスケジュールとあの女の修学旅行のスケジュールが同じなんだよ」
まさか…?
「梨桜ちゃんは水族館に行きたいって言ってたよな」
「ああ。言ってた」
梨桜ちゃんが言い出した『クラス単位で行きたいところを募って学年なんか関係無しに行くの!』その案は上級生が強く支持して、強引に教師達に了承を取り付けていた。
クラスで課外研修の希望を募っていた時に、梨桜ちゃんが『水族館、いいなぁ』と呟いていて、たったその一言でウチのクラスは水族館で希望を出している。
「あのバカ女も同じ日に水族館に行くらしいぞ」
「…梨桜ちゃんに水族館を諦めてもらうか」
三浦が言うと、宮野が首を横に振って溜息をついた。
「無理だな」
何でだよ、そう聞こうとしたら廊下から「開けてー!」と声がした。
オレが生徒会室の扉を開けると、大きな紙袋を抱えた梨桜ちゃんが立っていた。
「何処に行ってたんだよ!」
寛貴さんに睨まれたんだぞ!すげー怖いんだからな!
「家庭科室!教材が届いたから取りに行ってたの」
テーブルの上に紙袋と荷物を置くと、辺りを見回して「そういえば今日は定例会だったね」と笑っていた。
紙袋の中をゴソゴソと探しだして「あった」と言い顔を上げると宮野を見てニッコリ笑っていた。
「葵、丁度良かった」
梨桜ちゃんは宮野に向かって手招きをした。
「何だよ」
「いいから早く!制服脱いでこっちに来て」
梨桜ちゃんの手にはメジャーとノートが握られていた。
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