表と裏 (1)
次の日の放課後、いつものように図書室へ向かおうとすると廊下に海堂悠が立っていた。
今日、彼は学校を休んでいると思っていたから油断した。
「オレが言いたいことわかるよね?」
目の前で小首を傾げて問う彼の脇をチラリと見た。
この廊下を走ったら逃げられないかな
「今日は逃げられないよ?」
放課後に登校してきたのは私をつかまえるためらしい。
「逃げたわけじゃないよ?」
口角を上げて笑った。
「そぉ?」
う~ん‥可愛い。
「じゃあ、昨日のあれは何?」
「‥‥無言の抵抗?」
自分で答えて問いかけてしまった
「なんで?」
「強引に話しを進めようとするから抵抗してみたの。勢いで言ったことなら一晩たてば落ち着いて撤回するかなって思ったから」
にっこり笑った。けれど瞳は笑っていない
「残念。逆効果だよ‥‥っていうかオレ、君を連れて行かないとマズいんだよ」
「あの先輩達に言われたから?」
「ん~‥‥寛貴さんの言い付けだから、かな」
そう言うと私の腕を引いた。痛めている背中が気になって本気で抵抗できない私をいいことにぐいぐい引っ張る海堂悠。
何事かと私達を見るクラスメイト達。すごく注目を浴びていた。
引きずられるように歩きながらも、抵抗する私に海堂悠は私を振り返った。
「梨桜ちゃん、諦めなよ。寛貴さんなら悪いようにしないよ」
「やだよ」
一瞬、事情を話したら解放されるんじゃないかと思い、階段を登るところで私はしゃがみこんだ
「海堂くん、あのね」
ため息をついて私を見下ろす。ちょっとうんざりしているように見えた。
「なに」
声が低くなった
「実はね‥‥」
「オレ、宮野の女のコトも調べなきゃいけないんだ。手間かけさせないでくんない?」
出かかった言葉が喉の奥で固まった。
「なんで調べるの?」
彼が私の事を調べているの?
「そんなの宮野の弱味になるからに決まってるだろ?普通、チームのトップの女は狙われる。女を盾にとられたら最悪だからな」
「彼女じゃなかったら?妹とか‥‥従兄妹とか」
「同じだよ。むしろ血縁の方がタチが悪いだろ?女を盾にとられたら身動きができなくなって、男も女もサイアクだな‥」
頭を抱えてうずくまってしまいたかった。
愁君からあんなに説明されていたのに、ライバルチームの幹部から直接聞いた言葉は、初めて聞いた言葉のように私を揺さぶった。
「マジで時間ないから。悪いな」
「やだっ」
荷物のように小脇に抱えられた。
「梨桜ちゃん、ちゃんと飯食ってる?」
そのまま生徒会室に連れて行かれて椅子に座らせられると、目の前に藤島寛貴と大橋拓弥が座っていた。
「梨桜ちゃん、こんにちは。悠が手荒なことしてごめんね」
黙って頭を下げた。
もしも朱雀と青龍が争うことになったら‥目の前の二人は葵に危害を加えるのだろうか?
「君は普通の子と違うから楽しみだよ」
「私は普通です」
動揺を悟られないように言うと
「顔色が悪い。気分でも悪いか」
藤島寛貴が言った
「‥‥少し」
「ごめん!抱えた時か?」
違うと言おうと思ったけど、やめた。
そう思わせておけばいい
「隣の部屋で休め」
「今日は帰らせて下さい」
「車で送る」
その言葉に首を横に振った。
「風に当たって歩きたいです」
帰りたい。と頭を下げるとあっさり許してくれた
「明日の昼休みおいでよ」
笑って大橋拓弥が言い、私は曖昧な笑みを返してごまかした